いまや座右の書は「ハザードマップ」

この秋は東日本が台風にさんざん痛めつけられた。風だけではなく、大雨による被害も大きかった。台風19号の大雨では71の河川で140カ所もの堤防が決壊し、床下浸水、床上浸水が広がった。

埼玉県川越市に住む僕の家は被害を免れたが、自宅近くを小畔川という1級河川が流れている。これが2キロほど下流で合流する越辺(おっぺ)川の堤防が決壊し、特別養護老人ホームを水浸しにしたりした。前々回のこのブログにも書いたが、小畔川自身の水位も、僕の家からは1キロほど下流だったが、一時は「氾濫危険水位」を超え、ヒヤヒヤさせられた。ちなみに、越辺川はまもなく入間川に合流し、さらには荒川に合流して東京湾に注いでいる。

そうだ、ヒヤヒヤしているだけでは駄目だ。わが町の「水害ハザードマップ」を見なくちゃ――普段は関心が乏しかったのだが、今回の台風をきっかけに興味が湧いてきた。すぐに、市役所に行き、「川越市 水害ハザードマップ」をもらってきた。A4版、60ページ余りの冊子で、昨年12月に発行されている。
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わくわく(?)しながらページを繰っていくと、まもなく「荒川・入間川流域洪水ハザードマップ(想定最大規模)」と称した地図(上の写真はその一部)が現れた。見にくくて申し訳ないが、わが小畔川が写真の上のほうで越辺川に合流し、さらに入間川から荒川へと合流していく姿が描かれている。

そして、恐ろしいのは、赤茶けた色や黄色が塗られている部分である。浸水を表しており、色が濃くなるほど被害が大きくなる。浸水の深さの程度は何段階かに分かれていて、大人の膝の0.5メートルから3.0メートルは1階浸水、3.0メートルから5.0メートルは2階浸水などとなっている。川のすぐ傍の地域には斜線が引かれたところがあり、これは水の勢いで家屋が倒壊する恐れがあることを意味している。

で、他人様の家のことはさておいて、気になるのは、ハザードマップでわが家がどこに位置づけられているかである。目を凝らすと、写真の中央から左寄りにあるわが家の周辺は、赤茶けた色も黄色もついていない。「想定最大規模」の雨が降った時でも、わが家は浸水に無縁である。ああ、よかった、と安堵した。

ところが、このハザードマップの「注釈」を読むと、僕の安堵が全くの早とちりであることが分かってきた。つまり、注釈には「対象となる洪水予報河川」というのがあり、同じ小畔川でもわが家の近くを流れている部分は、洪水予報の対象にされていないのだ。分かりやすく言えば、「洪水が起きても、起きなくても、当局としては関知いたしません」ということか。僕の手元にあるハザードマップ川越市役所が印刷したものだが、これを作製した本家本元は国土交通省である。多分、手が回らなかったのだろう。

もうひとつ、気になることがある。ハザードマップは「想定最大規模」と称しているのだが、その前提となる降雨量は「荒川流域の3日間総雨量 632ミリ」「入間川流域の3日間総雨量 740ミリ」である。

台風19号がもたらした雨量からみれば、失礼ながら、なんとも能天気な想定である。何しろ、神奈川県箱根町では24時間で900ミリ以上、わが小畔川、そして荒川・入間川流域にも雨水が流れ込んでくるはずの埼玉県秩父市でも、24時間に500~600ミリが降っている。

今回は刻々と上がっていく小畔川の水位にビクビクしながら、「いざとなれば、自宅の2階におれば大丈夫だろう」と高をくくっていた。しかし、いつか箱根町並みの雨が近くで降れば、わが小畔川もひとたまりもないだろう。2階に逃げるなんて、姑息なことは考えず、次は避難を第一にしようと思っている。
 
市役所に水害ハザードマップをもらいに行った時、「これもよかったら、どうぞ」と、やはりわが町の「地震ハザードマップ」を渡された。「液状化危険度マップ」「揺れやすさマップ」そして総合的な「地域の危険度マップ」からなっていて、水害ハザードマップと同じように、危険度や揺れやすさが色分けされている。

それらを見ると、わが家があるあたりは幸い、液状化危険度は「きわめて低い」し、揺れやすさも、液状化が起きた地域で震度「7」になっても、わが家はなんとか「6弱」で収まることになっている。その結果、わが家の近くで全壊する建物の割合は1パーセント以下とか。今まで、うかつにも知らなかったのだが、このハザードマップを見ると、わが家は台地の上にある。こんなことも液状化危険度の低さなどにつながっているようだ。

かくして僕の座右の書のようになってしまったハザードマップだが、これまで以上に災害が頻発する日本列島では、新たに住むところを決めるなら、水害と地震ハザードマップを見て、少しでも安全な土地を選ぶ。すでに住んでいる土地でも、2つのマップを見て、いざという場合の避難対策などを講じておく。そんなことが必要な時代になったみたいである。