「レジ袋有料化」で思い浮かんだ「日中のプラごみ事情」

スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売店では7月1日から、プラスチック製の買い物袋、いわゆる「レジ袋」の有料化が義務づけられた。遅すぎたとはいえ、それはそれで結構なことなのだけど、「レジ袋」というと、なぜか僕の脳裏に浮かんでくる昔の出来事がある。

もう40年も前、1970年代の終わりだった。当時、僕は朝日新聞の経済記者だった。ある日の夜遅くの編集局で、刷り上がってきたばかりの経済面を眺めていた。すると、伊藤忠商事が中国に対してレジ袋(当時は「ポリ袋」あるいは「ビニール袋」と呼んでいた気がするが)のノウハウを輸出するという短い記事が目に入った。それ自体は特別にどうってことのない話なのだが、記事の最後のところに「中国の流通の近代化に役立つだろう」とあり、この部分が「?」と僕には引っかかった。

記事を書いた記者がちょうど近くにいた。僕はさっそく彼に言った。「おい、正しくは、流通の近代化に役立つのではなくて、中国で今後、ごみの増加が心配される、ではないのかい?」。彼は僕より3歳下の優秀な記者だったが、「確かにそうかもしれませんね」と、素直に頭をかいた。多分、伊藤忠商事の発表文の中に「流通の近代化」うんぬんといった表現があり、彼は深くも考えずにそれを引用してしまったのかもしれない。

でも、なんで、僕は環境問題に特に関心があるわけでもないのに、同僚記者にそんなことを言ったのだろうか? レジ袋の歴史を調べてみると、わが国のスーパーなどで広く使われるようになったのは、1970年代のことである。したがって、70年代の終わりごろにはその弊害が指摘されるようになっていたのではないか。

そして、中国の知人に聞いてみると、日本の商社のおかげかどうか、中国でも80年代に入ると、主に欧米系のスーパーなんかではレジ袋がどっと使われだした。中国語では「塑料袋(スーリャオタイ)」と言い、塑料とは「プラスチック」のことである。それらがごみの収集がまだまだ十分ではなかった中国のそこかしこに捨てられるようになった。

僕は新聞社を定年退職した後の2001年、中国の東北地方(旧満州)のハルビンに行き、ハルビン理工大学の日本語科でボランティアの日本語の教師をしていた。大学の近くの川のほとりをよくジョギングしていたが、塑料袋がそこかしこに捨てられていた。そんな折、日本語科のある女子学生が書いてきた作文が今も強く印象に残っている。

その内容は――真夏のある日、彼女の妹が「お姉さん、スキーに行きましょうよ」と誘ってきた。「エッ、何を言っているの? 今ごろ、雪があるわけないじゃないの?」とたしなめると、妹は「お姉さんって、何も知らないのね。今では夏でもスキーができるようになったのよ。ほら、ごらんなさい」と言いながら、窓を開けた。すると、遠くの山には真っ白に雪が積もっている。

彼女も納得し、二人でスキーの板を担いで、山に向かって歩き出した。やがて、山のすそ野に着いた。妹が突然、泣き出した。「お姉さん、ごめんなさい。これは雪じゃなかった」。確かに雪ではなく、山は上から下まで、捨てられた白い塑料袋で覆われていたのだった。――もちろん、実際にあったことではないけれど、身の回りを見れば、さもありなんと思わせる話だった。

日本より10年ばかり遅れて、レジ袋が使われるようになった中国だが、その弊害に対処したのはわが国よりもずっと早かった。12年前、2008年6月からスーパーなどでのレジ袋が有料化された。値段は1枚0・1元(1・5円)、0・2元(3円)、0・3元(4・5円)といったところらしい。下の写真は中国の大手スーパー「联华(連華)」の0・3元のレジ袋である。
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しかし、人口14億を抱える国のことでもある。この程度ではとてもプラスチックごみの削減には至らない。逆にプラごみは増え続け、その量は米国をはるかにしのいでナンバーワンである。もちろん、当局も手をこまねいているわけではない。2022年までにはプラスチック製の袋の使用を全面的に禁止するそうである。やっと、レジ袋が有料化されたわが国に比べ、対策は何歩か先を進んでいる。
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話をわが国に戻すと、せっかくレジ袋の有料化にこぎつけたのに、「抜け穴」もあるような気がする。それは、なんと呼ぶのかは知らないけど、上の写真にあるような「プラスチック製の袋」が(僕が知る限り)どこのスーパーでもレジを出たところに備えつけてあることだ。これは「持ち手」がなく、レジ袋ではないので、7月以降も無料である。

スーパーで眺めていると、おばさんやおばあさんに多いのだけど、すでに立派に包装された肉や魚や寿司、弁当などをこの袋に入れ、それからレジ袋に移している。この袋を10枚、20枚と取って、カバンに入れているおじさんも見かけた。何に使うつもりかは聞き損ねたけど、これからは有料になったレジ袋の代わりにこれを使う人が増えるのではないだろうか。レジ袋と同じく、ごみ出しの際にも十分に使えるし、ペットを散歩させる際の糞入れにもできる。

ちなみに、上海在住の中国人に聞くと、かの地のスーパーにはこんなものはない。それでも、なんの不自由も感じていないとのことである。