「酒抜き」の夕食に葛藤

長引くコロナ禍——蟄居ばかりではあんまりなので、時には暇つぶしにかなり長い距離の散歩に出かけている。昼過ぎに家を出て、1人で1時間、2時間、3時間……まさに足の向くまま気の向くまま。そして散歩の終点あたりで、安全そうな飲食店を探して、適当に飲み食いする。それが楽しみなのだが、足の向くままとはいえ、散歩に当たって気をつけていることがある。ひとつは電車で帰ることを考えて、JRなどの沿線からあまり離れないように歩くこと、もうひとつは自宅のある川越市の市域を抜け出すことである。

というのは、わが埼玉県は緊急事態宣言こそ出ていないものの、さいたま市など15市町を「蔓延防止等重点措置」(余談ながら、「まん防」なぞという間の抜けた表現はしたくない)の対象区域にしていて、川越市もそれに入っている。15市町は緊急事態宣言が出ている東京都に近いところである。そして、飲食店の入り口には、無粋なことには「酒類は提供いたしません」との張り紙がしてある。

だけど、食事とりわけ夕食を「酒抜き」で済ませるなんて、僕はとても我慢できないし、想像さえしたくない。まずはビールが飲みたい。ビールが最初に喉を通る時のうまさは格別である。生きていることを実感する。無趣味のせいもあって最近、退屈な日々を送っているだけに、その瞬間がなくなれば、生きる希望が失せてしまう。

不幸中の幸いというか、わが川越市は県内の「蔓延防止等重点措置」対象区域の西の端に位置している。つまり、自宅を出て西方に歩くだけで、ここを「脱出」することも難しくはない。新規の感染者も西に行くほど少なくなり、「ゼロ」の市や町も多い。ただし、重点措置の区域外でも、県の要請とかでいくらか制限があり、酒類提供は「お一人様」か「同居家族」に限るとのこと。じゃあ、数人連れで来て、それぞれ別の席で飲んだら、どうするの? 同居家族かどうか、どこで見分けるの? 疑問はあるけれど、僕の場合はいわゆる「個食」「黙食」だから、何の問題もない。店に入るのも、夕方の早い時刻で、おおむね相客もいない。感染の危険もほぼゼロのはずである。

そうは言っても、たまには生活必需品を買うために、重点措置の対象区域である川越市の街中に出かけることもある。「酒類を提供しない」店ばかりである。そんな時には、夕食時のビールをどうするか? 持ち込みも駄目なようだ。じゃあ、スーパーかコンビニで買った缶ビールを、そこらのベンチに腰かけて飲み、ほろ酔い気分で店に入る。そして酒なしで食事する。それしか、方法がない。まあ、まともな人間がやることではないだろうけど、それを実行している。

ただ、ネットで「県民の皆さんへのお願い」を読んでみると、「路上、公園などにおける飲酒を控える」というのもある。僕の行動は明らかに、それに背いている。でも、県の要請は多人数での酒盛りはやめてほしいという意味だろう。僕の場合は、さっきの個食、黙食という表現に倣えば「個飲」「黙飲」である。まあ、許されてもいい。

ところで、また「そうは言っても」となるのだけど、食事中にも少しは酒を飲みたい。口を湿らすだけでもいい。全くの酒なしはなんとも寂しい。ひそかに飲む方法はないだろうか。ウイスキーや日本酒の小瓶を持ち込む手もあるだろう。でも、あれは瓶が割合に目立つ。店員から「お客様、お酒の持ち込みは……」を言われたら、なんとも恥ずかしい。
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いろいろ考えた末、焼酎の小さなボトルがいいことに気づいた。上の写真がそれで、左側はプラスチックで包装してあるが、これをはがすと、やはりプラスチックの透明の容器(右側)が現れる。焼酎が入っているとは思えないし、小さくてズボンのポケットにも入る。店員の目を盗んでちびちびやるのに向いている。

ただし、これもまともな人間が考えることとは思えないし、「ルール」にも背いている。なので、まだ実行には移していないが、これがポケットやリュックの中にあると思うだけで、なんとか酒を我慢できないこともない。卑しいものである。

コロナ禍が早く終息して、本来はまともな人間である僕が、こそこそせずに普通にふるまえる日が戻ってきてほしいものである。