僕も「血の巡り」が悪くなった!?

この冬はシモヤケに随分と悩まされた。これまでの長い人生で、シモヤケで困ったことなぞ一度もない。それなのに、寝ていると、夜中に両足の先のほうがジンジンと痛む。とても寝てなんぞいられない。仕方がないから、起き上がって台所のテーブルに座り、ウイスキーをちびちびやっていると、痛みが収まってくる。もう一度、寝床に潜り込む。そんなことが何度かあった。

痛みが収まる理由は素人でもなんとなく分かる。横になっていると、足の先端への血の巡りが滞りがちになる。起き上がって立ったり座ったりしていると、血流が回復するのではないか。そのうちに、少しずつ気温が上がってきたおかげだろう、夜中に起き上がることはなくなった。朝方の目覚めの頃に少しジンジンするが、我慢できないほどではない。暖かくなりさえすれば、自然に治っていくだろう。

ところが、春3月になっても、治りようがはかばかしくない。とりわけ、左足の(手の指でいえば)人差し指が赤く腫れていて、触ると飛び上がるほどに痛い。ひょっとしたら、シモヤケではない別の病気で、足の指の切断なんてことにもなりはしまいか? 皮膚科の医院に駆け込んだ。ここは水虫の治療でよく通っていたが、なんとかそれも治ったので、しばらくご無沙汰していた。

先生の見立ては「両足とも立派なシモヤケ」ということで、少しほっとした。先生はにこやかにおっしゃる。「あなたがシモヤケで来るのは初めてでしたね。これからはシモヤケの治療に取り掛かりましょう」。血流をよくするという飲み薬から感染症治療の軟膏……漢方薬まで含めて4種類もの薬を渡された。

血流といえば年末、少し耳鳴りがするので、耳鼻咽喉科の医院に行ったら、ここでも血流をよくするという薬を処方された。どうも僕は血の巡りが悪い、つまりは脳の働きにも問題が生じているのではないか? 最近、そんなことを思わせる出来事もあった。

某日、慶応病院の整形外科に定期の検診で出向いた。ところが、診察室の前に着いてからはたと困った。ここに何の検診で来たのかが頭に浮かんでこない。実はこの病院の整形外科では3人の医師にお世話になっている。うち1人は以前、脊柱管狭窄症の手術をしてもらった医師で、何年もの付き合いである。あと2人は比較的最近、それぞれ初めて診察を受けた医師で、1人は首の後ろにできた瘤のことについてだった。もう1人が今日の担当医師なのだが、何のことで相談したのか、思い出せない。

診察室の前で順番を待つ間、言い訳を考えた。いわく「先生、まことに間の抜けた質問で申し訳ございませんが、私は今日、何の診察でここに参ったのでしょうか? 実は整形外科では3人の先生にお世話になっておりまして、そのせいでしょうか、どの先生のご担当が何なのか、頭がこんがらかってしまいまして……」

やがて順番が来て、診察室に入った。結論から言うと(言葉の使い方は正しくないだろうけど)人生、何ごとも「案ずるより産むがやすし」である。先生は僕の顔を見るなり、両手を派手に振って「痛みはその後、いかがですか」とおっしゃる。あっ、そうだった、思い出した。この先生には手の関節炎だったか、腱鞘炎だったかで診てもらったのだ。「はい、おかげさまで……」と、その後の会話は順調に進んだ。

ひとつ、弁解すると、この病気については、たまたま近所の整形外科医院に行った時に「経皮鎮痛消炎剤」と称する軟膏をもらった。痛み止めに関しては、これが結構よく効いてくれる。一時は手の指が痛くて「塩焼きの魚を箸で食べるのなんてごめんだ」と言っていたのに、それを忘れさせるほどになっている。慶応病院の整形外科に通ったことを忘れていたのは、そのせいもあるはずだ。

そういうわけで、僕の血の巡りの悪さも、それほど心配することはなさそうだ。加えて、さっきの皮膚科医院では血流を改善する薬を30日分もくれた。それを飲み終えた頃には、血の巡りのいい聡明な僕に戻っていることと期待している。