責任逃れの茶番劇

国土交通省の元事務次官東京地下鉄東京メトロ)会長の本田勝氏(69)が、東証プライム上場の民間企業「空港施設株式会社」に対して、国交省OBの副社長を社長にするよう求めていたことが最近、朝日新聞にすっぱ抜かれた。空港施設は羽田などの空港でビルの運営などをしており、これら事業を巡っては国交省が多くの許認可権を持っている。本田氏は表向き否定しているが、それを背景に民間企業の役員人事に介入したわけだ。

全くけしからぬ行為なのだが、それはそれとして、新聞で本田氏と記者との一問一答など、国交省の元役人たちの言い分を読んで、感心してしまった。皆さん、最初から最後まで「責任逃れの話法」に徹しているのだ。

本田氏は昨年12月、空港施設を訪ね、乗田俊明社長や稲田健也会長と面会した。同社は1970年の創業以来、国交省系のOBが社長を務めていたが、元役人の経営手腕に疑問があったりして、現在の社長は日本航空JAL)、会長はANAホールディングスの出身で、本田氏が社長にしようとした国交省出身の副社長がその下にいる。

会社側の記録などによると、本田氏は面会の席で「方針が固まった」「国交省の出身者を社長にさせていただきたい」と発言している。いきなりの直球で、居丈高である。ところが、記者との一問一答では「『方針を固める』というのは言い過ぎだったように思う。そういう考え方がある程度まとまったというだけであって、それを相談に行ったということ」と、随分とトーンダウンしている。

また、面会の席で自身の立場を「有力なOBの名代」と言い、先輩の複数の元次官の実名を挙げて、彼らも同様の考えだと伝えている。ところが、記者との一問一答では面会の経緯について「いろんな方々から頼まれてというだけで、それ以上はノーコメント」と逃げる。「有力なOBの名代」と言ったことに対しては「そうご理解されても仕方がない。私自身が、のこのことしゃしゃり出ていったわけではない」。つまり、人事に介入したのは自分の考えからではない、先輩の元次官たちから言われたからだ、と責任を転嫁する。

その後、国交省が本田氏から聞き取り調査をした結果、同氏が挙げた先輩の元次官は小幡政人氏(78)と安富正文氏(75)だと判明した。ところが、お二人も責任逃れに徹底する。小幡氏は「(昨年12月の本田氏と空港施設社側との)面会のことは知らなかった」「(本田氏が小幡氏の名前を挙げたことについては)どういう趣旨で言ったかわからない」「(組織的な介入ではないかと記者から聞かれ)ありえないよ。そんなんじゃないよ」

安富氏は「本田氏が調整していたのは聞いており、昨年12月の面会も事後報告を受けていた」「ああしよう、こうしようという話はしていない」「本田氏からすれば、自分の一存だけではなく、小幡氏や私から了承を取りたいという気持ちは当然あったと思う」

本田氏は木幡、安富両氏から頼まれて空港施設社の社長、会長に会いに行ったと言うのに、木幡氏は「知らなかった」、安富氏は「事後報告を受けていた」ものの、「ああしよう、こうしようという話はしていない」。話が全くかみ合わない。

ところで、本田氏が社長にするよう要求した副社長は、元国交省東京航空局長だった山口勝弘氏(63)だが、彼も一昨年の5月、役員人事を話し合う社内の会議で、自分をヒラの取締役から会社を代表する「代表取締役副社長」にするよう求めている。会社側の記録などによると、山口氏は出身官庁の国交省に言及しながら「バックにいる人たちがどう思っているかということ」「私自身の考えじゃない」と主張。山口氏の要求通りにしないと「お役所が納得しないということか」と問われると、「そうだ」と答えている。その結果、山口氏は望み通りのポストを手に入れた。余談ながら、今回の騒ぎの最中の4月3日、山口氏は「一身上の都合」で代表取締役副社長を辞任している。

話は変わるけど「皆がそう言っている」という話し方がある。例えば、Aが誰かにBの悪口を言う時に「Bはこんな悪い奴です。皆、そう言っています」というふうに使う。つまり、AはBの悪口を言ったけど、それは皆がそう言っているからであって、自分が積極的に言ったわけじゃない、という責任逃れの言い方だ。

副社長を社長にするよう求めた本田氏は、先輩二人の名前を挙げて、自分はその「名代」だと告げている。「名代」は「皆」と同じ使い方だ。つまり、本田氏は多分、自分の要求が決して褒められたものではないと分かっていたので、その責任を先輩二人に持ってもらいたかったのだろう。一方で、新聞に名前が出てしまった先輩たちは「知らなかった」「事後報告を受けていた」と、この問題からできるだけ距離を置こうとしている。

2年前に、自分をヒラの取締役から代表取締役副社長にするよう求めた山口氏も、その要求は自分がするのではない、国交省なのだ、と「皆」を有効に使っている。これも責任逃れの話法であろう。本田氏らは直接、記者の取材を受けているが、山口氏は「取材は会社を通じて」と、ひたすら逃げの一手のようである。

以上の騒動は、あってはならない話なのだけど、冷やかし半分で眺めていると、なかなかに面白い、責任逃れの茶番劇である。