わが認知症予防策

夜、自宅で2階のわが書斎(と言っても、昔の子供部屋)から1階に降りる時、階段の電灯をつける。そして、階下の居間に入ってしまうと、その電灯を消すのを忘れている。朝、洗面所でガスの湯沸かし器をつけて顔を洗う。そして、洗面が終わっても、湯沸かし器をそのままにしている。時々あることで、まだ大事に至っていないのが幸いである。

1年半ほど前から日記をつけている。以前にもつけていたが、毎日が暇なせいもあって再開した。時々、数日間も書くのを忘れていて、まとめて書く。ところが、その数日間の出来事を思い出すのに苦労する。わずか3日前が思い出せないこともあった。そこで、手帳に書いてある「予定」を見ると、「15時、〇〇と池袋のライオン」と書いてある。○○は息子の名前、「ライオン」はビアホールである。埼玉の田舎から東京に出かけて飲むなんて、今の僕にとっては「非日常」である。それすら忘れてしまっている。

これに限らず、細かいことの物忘れが割合に頻繁なようだ。近くにあるスーパーの名前がなかなか出てこない。昔からの知人や近所の人の名前が浮かんでこない。しばらく苦悶すると、一応は思い出すから、まだ「認知症」ではないだろう。だけど、気をつけておいた方がいい。では、どうするか。そうだ、毎日の行動を計画的に進めていくのも、悪くないのではないか。暇だからと言って、毎日を行きあたりばったり過ごすのはよくないはずだ。

そこで、B5判くらいの紙に5日間ほどの日程・計画を細かく書き出すことにした。これは手帳とは別で、上の写真のような感じである。何事でもいいから、脳みそをできるだけ働かそう。一番上の「5月8日(月)」には「11時 原整形外科」「YAOKO ウイスキー 牛乳 ヨーグルト おでん 納豆」「チンさんの作文」「体温朝夕」とある。あとでまた説明するが、緑色の蛍光ペンが塗ってあるのは、すでに済んだ「予定」である。

メモの意味は、昨年末以来の五十肩?の治りが思わしくない。久しぶりに医者で注射してもらおう。帰りにスーパーのYAOKOで買い物をしよう。買うのは何と何……。以前、中国で日本語の塾を開いていたが、その頃の教え子のチンさんから作文を送ってきている。添削してあげなきゃ。近く埼玉医科大学病院でMRI検査を受ける。それまで毎日朝夕に体温を測るように言われている。本来なら、空で覚えておいていい事柄だけど、こうしてメモにすると、物忘れが減る。ひいては脳の健康にいい影響を与えるのではないか。

少し飛んで5月11日(木)には「慶応病院 腎内代 5時起床 8時着」「三井住友銀行 5万円」「浅草 入母屋」「池袋 ジュンク堂」「ビックカメラ インク」とある。意味は、早起きして慶応病院の腎臓内分泌代謝内科での定期検診に出掛ける。わが家の近くには三井住友銀行の支店がない。東京に出たついでに、カード代金を入れておこう。最近はご無沙汰の浅草の小料理屋は今どうなっているか、ちょっと寄ってみよう。本屋にも寄ろう。プリンター用のインクも買っておこう。久しぶりの都心なので、予定が山盛りだ。

これら予定表の右端には、縦に「机上の整理」「老眼鏡」「京都行 きっぷ」というのが並んでいる。ここには、今日明日にではないが、近々やろうと思っていることを書いている。意味は、書斎の机の上が随分と乱雑になってきた。片付けなきゃ。老眼鏡が目に合わなくなってきたみたいだ。作り直そうか。大学卒業60周年でこの月末、友人たちと京都に集まる。そろそろ新幹線の切符を買っておこう。我ながら実にくだらないとは思うのだけど、頭の整理にはなっているはずだ。

そして、まだまだ工夫がある。予定が「消化」されるたびに、それらを蛍光ペン(僕は草色が好きなので、その色)で、さっきの写真にあるように、上塗りしていく。何事かを成し遂げたみたいで、気分が爽快になる。ただし、やり残した場合は、そのままにしておく。さらには、5日間ほどの予定が半分ほど消化された時には、それを破り捨て、新しい紙に新しい予定を書いていく。気分が改まる。未来がどんどん拓けていく感じがする。

もっとも白状すると、写真の計画表はややきれいごとである。実際には「スーパー ポイント記入」なんて項目があったりする。先日、スーパーに行った時、カードを忘れてポイントをつけてもらえなかった。で、改めてカード持参で行って、ポイントをもらおうとの意味だが、わずか1ポイントか2ポイント、つまり1円か2円の話である。せこいことこの上もないが、いつかは「超せこいけれど効き目抜群 岩城式 認知症予防策」と銘打って世に認められる日が来るかもしれない。