「割り込み」と「譲り合い」の密接な関係

明けまして おめでとう ございます
一向に進歩のない「駄文ブログ」ではございますが、本年もお付き合い下さいますなら、まことに幸いでございます。

旧年のこと、日本から空路、中国・広州に着き、いま住んでいる梧州に向かうべく高速鉄道の広州南駅に行った。切符はすでに予約してあるのだが、売り場に行ってパスポートを見せ、現物を手に入れなければならない。テロ対策なのだろう、中国の鉄道はこのところ警備が厳しくて、切符には僕の名前とパスポートの番号の大半が記される。それはそれで仕方がないのだけど、切符売り場には20人ほどの行列ができている。10以上ある売り場のどこもが同じ状況だ。中国の鉄道の駅ではよくある光景である。

列車の出発までまだ1時間近くある。列が順調に前に進めば、乗り遅れる心配はない。だけど、途中の誰かのところでやたらに時間が掛かったりといったこともある。これから行く梧州在住の教え子が付き添ってくれているものの、油断はできない。彼女は中国人だから、予約さえしてあれば、券売機に身分証を入れるだけで簡単に切符が手に入る。問題はパスポート提示が必要な僕である。彼女と一緒に列の最後尾に並んだものの、ちょっと不安である。

と、彼女がスルスルと列を前に歩いて行き、最前列の客と何やら話している。そして、僕を手招きする。エッ、どうしたの? 行ってみると、「先生、ここに並んで下さい」と、最前列に僕を押し込む。割り込み? 無事、切符を手に入れたが、彼女によると、「時間がありません。日本人の老人が困っています」と、最前列の人に頼んだのだそうだ。その人はOKしてくれたのだが、2列目、3列目、さらにはその後ろの人たちは不満ではなかったのだろうか。でも、ブーイングは全く受けなかった。

後で彼女に「あんな割り込み、よくやるの?」と聞いたら、「急いでいる時にはやります」とのこと。「でも、断られたら?」「次の人に頼みます」「その人にも断られたら?」「じゃあ、その次の人に頼めばいいじゃないですか」。

以前、中国に長い日本のジャーナリストがどこかに書いていた話を思い出した。行列に並んでいた彼の前に中国人の男が割り込んできた。彼は男に注意した。すると、男は「分かった。じゃあ、あんたの後ろに並ぶよ」と言って、彼の後ろに割り込んだ。中国人の行動には精通しているつもりの彼も二の句が告げなかった。

割り込み、横入り。日本人もやるが、僕の見るところ、中国人はもっとやる。けしからん。「非文明人」の行為である。スーパーなんかで何度か、中国人に注意して差し上げたこともある。でも今回、広州南駅で僕自身が割り込み、かつブーイングがなかったこと、また、なんとしても割り込もうとするさっきの男の話、さらにはわが教え子の話から、見方が少し変わってしまった。

つまり、割り込むのは、並んでいる人たちの了解を得ようと得まいと、必要に迫られてのことである。理由がある。そして、それに対してブーイングがない。これはやむを得ない割り込みを容認する、一種の「譲り合い」の心ではないだろうか。「非文明人」ではなくて、むしろ「文明人」の行為である。

場面はがらりと変わる。中国のバスでは老人など弱者に席を譲るのはごく普通のことである。日本の比ではない。これまでに住んだハルビン、桂林、南寧、そして今いる梧州でもそうだ。先日、10人乗りの小さな市内バスに乗っていた。最初はすいていたが、そのうちに座席は満杯になり、次の停留所では何人もが乗り込んできた。老人もいる。すると、最後尾に座っていた若い女性がさっと立ち上がった。でも、特定の誰かに席を譲るというのではない。ここはまだ席が空いていますよ、どなたでもどうぞ、といった立ち方だった。実にスマートだった。

別の市内バス。結構混んでいたが、僕は座っていた。停留所で赤ん坊を背負った女性が乗り込んできて、僕の近くに立った。当然、僕は彼女に席を譲ろうとしたが、「すぐ降りるから」とか言って、座ろうとはしない。仕方なく僕はまた腰を下ろした。次の停留所で彼女のそばの席が空いた。彼女はそこに座った。やはり立っているのはきつかったのだろう。さらに次の停留所では僕と同年輩のおじいさんが乗ってきた。彼女はさっと立って、おじいさんに席を譲った。おじいさんは「いや、いや」と固辞していたが、彼女は強引に彼を座らせてしまった。

以上のバスでの話はまさに「譲り合い」の心から出ている。「文明人」の行いである。僕はこれまで、行列で割り込む中国人は「非文明人」、バスの中での中国人は「文明人」、なんでこう極端なのだろうと不思議に思っていたが、「譲り合い」をキーワードにすると、どちらも同じ行いである――まあ、僕の仮説に過ぎないのだけど、先日も夕方、スーパーでおばさんに割り込まれた。断わりもない。でも、「おばさんも夕食の支度で気持ちがせいているのだろう。理由のある割り込みだ。譲ってあげよう」と思えば、全く腹が立たなかった。

             × × × × ×

お正月なので、ひとつ「おまけ」を付けます。下の写真です。

こんなカレンダーが梧州の街中の露店で売られていました。表紙のお二人は中国の国家主席習近平氏とその妻です。ぱらぱらと繰ってみると、月によって二人が別々に出てきたり、一緒だったりします。夫が一人の時はそばに航空母艦が控えていたりします。どんないきさつでこんなカレンダーが出来たのか、分かりませんが、ひとつ10元、200円足らずです。なお、カレンダーの向かって左横に貼ってあるチラシは「応急貸し」、つまり高利貸しの広告です。カレンダーの右横に置いてあるのはトイレットペーパーです。なんとも混沌とした中に国家主席ご夫妻のカレンダーが存在しています。