「できちゃった結婚」上

「今の会社に入って3年の間に同僚の結婚披露宴に7回出席しましたが、うち5組が『できちゃった結婚』でした。昔から中国では、結婚する前に妊娠でもしたら『はしたない』と眉をひそめられたものですけど、今は『でき婚』が普通になってしまったようです」。わが塾の生徒だった30歳の独身女性がそう言ってきた。

文面は日本語だったので、「できちゃった結婚」「できちゃった婚」あるいは「でき婚」は中国語ではなんと言うのだろうかと、ふと思った。日中辞典には載っていないので、中国まで問い合わせてみると「奉子成婚」だとのこと。今度は中日辞典を引くと、奉子成婚が「できちゃった結婚」という日本語訳とともにちゃんと載っている。奉子成婚を直訳すれば「子供を授かっての成婚」になろうか。いささか直截的な日本語の表現に比べると、なんとも奥床しい。

もっとも、日本語でも結婚業者が「授かり婚」「おめでた婚」なぞと言っているようだが、これは一般的ではない。一方、中国語でも、でき婚を「先上車后補票」つまり「先に列車に乗ってから切符を求める」と、やや品のない表現もするらしい。

いずれにしろ、冒頭の「7組に5組ができ婚」とは相当な割合だ。そこで、やはり塾の生徒だった27歳の独身女性にも問い合わせてみた。すると、自分も含めて19人に「でき婚をどう思うか」とアンケートし、結果の一覧表を送ってくれた。彼女と同年代を中心とした未婚、既婚の男女で、でき婚もいる。

そのコメントを読むと「でき婚賛成派・肯定派」が19人中14人。やはり圧倒的に多い。例えば、「でき婚の夫婦はいっぱいいるよ。こんなことを聞いてくるなんて、君はもう時代に後れてる。僕の妹もでき婚だよ」(男、27歳、未婚)

「でき婚は今や普通のことだよ。人々の考え方は時代とともに変わっていくんだから。子供ができたのに結婚しないで暮らしているカップルも結構いるわよ」(女、28歳、既婚)

「お互いに愛しているなら、婚前同居でもでき婚でも、ただの形式だから、構わないんじゃない?」(女、27歳、未婚)

「でき婚の友だちはいっぱいいる。今や普通のことだけど、子供ができたと言って相手を驚かせ、自分と結婚させるって感じもするわね」(女、25歳、未婚)

「僕はでき婚に賛成。もし結婚前に彼女に子供ができたら、僕は絶対責任を取って彼女と結婚する。僕にも男としての責任感があるから」(男、26歳、未婚)

「仕方のないことよ。子供ができたら、結婚するしかないじゃない? (でき婚した)夫は不器用だけど、まあいいか。今の自分は不幸せとはいえないけど、幸せとも言えない。ただ、平凡な毎日を送っているわ」(女、27歳、でき婚)――といったところが「でき婚賛成派・肯定派」である。

残り5人が「でき婚反対派」で、例えば、「相手を愛しているからではなくて、子供ができたからと言って結婚するのは、無責任極まりない」(男、25歳、未婚)

「親になるにはそれなりの覚悟が必要です。子供にとって一番大事なのは幸せで完全な家庭です。子供ができたから仕方なく結婚するのは無責任で、子供にもよくないです」(女、25歳、未婚)

「でき婚する女性は軽率に見える。脳みそが足りないって感じがする」(女、27歳、未婚)――といったところ。中国社会の昔からの価値観であろう。

また、コメントの中には「先進国の人と比べると、中国人の避妊意識はまだ低い。そして、セックスのことになると、みんな恥ずかしがって避妊をしない。自然な成り行きに任せたいって気持ちもあるのかな」(女、28歳、未婚)、「女性にとっては、子供ができたのに結婚できないのは恐ろしいことよ。そして、妊娠したら絶対に堕胎なんてしないでね」(女、30歳、既婚)というのもあった。

確かに、奉子成婚なぞと上品に言っても、不用意に妊娠してしまう女性が中国では少なくないようだ。そのせいもあるのだろうか、桂林や南寧の街角には「眠っている間に終わります・・・」なぞと、まさににこやかに堕胎を呼び掛ける婦人科病院の広告がやたらと目に付く。「誰々さんが堕胎したようだ」なんて噂もときどき耳にした。

ところで、中国社会ではこの奉子成婚の「損得」「メリット、デメリット」はどうなのだろうか? それは、次回に・・・。