言論「自由」の中国!? 「不自由」の日本!?

日本人:中国の共産党政権の言論への締め付けはこのところ、目に余るものがあります。日本の新聞報道によると、「痴漢をなくそう」と訴えた女性たちが警察に拘束されたり、大学で外国語の教材を使うことに圧力を掛けたりしています。1989年の天安門事件の犠牲者の遺族が墓参りをしたら、そのリーダーは国家政権転覆扇動という容疑で拘束されました。言論の自由の国にいる我々日本人には信じられないことです。

中国人:なるほど。でも、私には中国の共産党政権の気持ちがよく分かります。彼らにとっては、やむを得ない措置だとも言えます。

日本人:エッ、あなたはこんなにひどい共産党政権を支持しているのですか?

中国人:違います。全く支持なんかしていませんよ。ただ、習近平国家主席李克強首相はじめ共産党政権の面々は今、民衆を恐れに恐れています。貧富の格差拡大、環境汚染など数々の「失政」のせいで、いつ自分たちの政権が暴力で覆されるかも知れない。だから、人々が集まって連帯するのが怖いのです。そういう意味で、私は彼らの気持ちが分かると言ったのです。

日本人:だとすると、中国の普通の人々は今、自由にものが言えなくて、息も詰まる状況でしょうね。

中国人:いえ、それもいささか違いますね。確かに、表立って共産党政権を批判したら、後でどんなことが起きるか分かりませんが、仲間同士ではさんざん悪口を言っています。特に北京の若者たちはすごいですよ。列車の中でよく一緒になる農民工(出稼ぎ農民)も負けてはいません。中国人はみんなが政治家と言ってもいいほどです。共産党政権の目の届かないところでは、言論の自由が花盛りです。

日本人:共産党政権は民衆を恐れているということですが、習主席が農村を訪問して農民と輪になって歓談したり、北京の街中の庶民向けの食い物屋にふらりと現れたりといったニュースを見たこともありますよ。

中国人:あなたも能天気な人ですね。農村を訪れた習主席の周りに仮に100人の農民がいたとしましょう。うち60人は北京からお供してきた警官などの公務員とその家族が農民に扮しています。残り40人が地元の同じような連中です。これは関係者がブログに載せた話で、記事はたちまち削除されたそうです。習主席の妻の周りも同じような状況でしょうね。昔の共産党幹部を褒めるわけではありませんが、毛沢東周恩来、それに天安門事件で失脚した趙紫陽といった人たちは、民衆を怖がってはいなかったから、決してそんなことはしなかったはずです。

日本人:それにしても、日本は言論が自由で、あなたも羨ましいでしょうね。

中国人:大変に失礼ですが、それにも大いに疑問があります。私は日本人の若者たちと話したことが割合にあるのですが、政治向きの話になると、大方の若者は逃げてしまいます。例えば、安倍晋三首相の靖国神社参拝、福島の原発事故、沖縄の米軍基地といったことについて「どう思いますか」と尋ねても、ノーアンサーです。40〜50年前の中国の文化大革命の時と似た状況です。何かを怖がっています。そのくせ、「これ、どこそこで買ってきたのよ」「わあ、すてき」「しかも、安かったのよ」といったことだと、ワーワー、キャーキャー、盛り上がります。

日本人:うーむ。先日、新聞の投書欄に載っていた70歳代の男性の話を思い出しました。なんでも、彼はグラウンドゴルフ用のかばんに「憲法9条改悪反対」「戦争へと進む集団的自衛権行使反対」というスローガンを貼り付けていました。すると、ある日、仲間のひとりから「あれは外してくれない?」と言われました。で、「表現の自由、思想信条の自由は憲法で保障されている」と答えたら、別の仲間が次々に寄ってきて「憲法なんか関係ない」「我々も同じと見られる」「皆が迷惑がっている」「いいから外したほうがいいよ」とのこと。以後、彼はグラウンドゴルフには行かなくなったそうですが、あなたの言うこととも重なりますねえ。

中国人:私に言わせれば、人々がそんな調子だから、安倍首相は国民をなめきっていますね。何をやっても国民はそうは文句を言わないでついて来るはずだと・・・安全保障関連法案の国会審議を見ていても、そう感じます。人民を怖がっている習主席のほうがまだましかも知れませんよ。中国の政治家は大変です。日本の政治家はらくちんです。

日本人:中国は表向き、言論は不自由だけど、人々の間には言論の自由がある。みんな思い思いにしゃべっている。日本は逆に表向き、言論は自由だけど、実際はそうではない。あるいは、言論の自由を人々は生かし切っていない。ああ、もったいない。少し誇張して言うと、そんなことなのかなあ。