伴侶を求める70歳代女性

「私の名前は○○で、75歳。退職して北京市に住んでいます。長年、医師として働いてきました。60歳から80歳までの男性と友人になりたいです」

「△△です。70歳。テレビ局を退職して上海市に住んでいます。63歳から78歳までの男性と付き合いたいです」

「◎◎です。71歳。退職して天津市に住んでいます。64歳から79歳までの男性と友人になりたいです」

ここ2カ月ほど毎日、僕のパソコンに中国人女性からのこんな中国語のメールが舞い込むようになった。1日に2通から3通、みんな僕と同年輩の70歳代で、スナップ写真が付けてある。水着姿の方もいらっしゃった。思うに、夫と死に別れたりして、現在は独り身の女性のようである。「名前」「年齢」「在住の都市」「付き合いたい男性の希望年齢」だけを記した簡単なものから詳しい「自己紹介」を付けたものまである。

最初はこんなメールを見て「なに、これ!? 気持ち悪いじゃん」なぞと思っていたのだが、そのうちに野次馬根性が出てきたのか、いちいちコピーして残すまでになった。それらを改めて読んでみると――

75歳の女性。「事業会社を退職後、私の最大の趣味は自分が食べるものは自分で作ることです。郊外の荒地を1畝開墾し、落花生、トウモロコシ、大豆,黒豆、カボチャ、ヤマイモ等々を植えています。化学肥料、農薬、除草剤は使いません。春になると畑に行って種をまき、あと何度か除草し、秋には・・・」。

70歳の女性。「毎日、体育館に行って数時間、バドミントンをしています。おかげで健康だし、スタイルもいいです。私は感性が豊かで善良です。大自然を愛しています。旅行が好きで、撮影も大好きです。雲南省で生まれ、湖南省で育ち、今は時々、上海にいる一人娘と婿、孫と過ごしています」。

わざわざ英文で自己紹介する女性もいる。相手は中国人に限らないということだろうか。70歳の女性。「I am a simple person.」で始まり、「旅行と撮影が好きです。もし、あなたが恋人やガールフレンドを探しているなら、ぜひ私に連絡してください。I think the simple life is the best.」などと続く。添えられた写真は海外で撮ったものだろうか。希望する男性の年齢は30歳から80歳までと幅広い。

もう一人の英文の女性は74歳。「私は中国最高の大学の学位を持っていて、宇宙開発部門で働いてきました。夫が他界してからは、中国と米国を行ったり来たりして過ごしています。娘がニューヨークで働いているからです。将来の生活を楽しむために、紳士的でユーモアに富んだ男性を探しています。ただ、今は結婚するつもりはありません。いい友人でいたいのです」。

この9月、ハルビン瀋陽に行って、久し振りに会った昔の教え子に以上のことを話してみた。30歳代前半の女性たちである。すぐさま返ってきた答えは「先生、それは詐欺ですよ。そんな文章を書いているのは、70歳代の女性ではなくて、20歳代の悪い男たちです」「その年代の女性と男性が一緒に暮らせば、やがて相手の面倒を見なければならなくなるのは女性です。普通の女性はそんな損なことをしませんよ」といったものだった。

確かに詐欺の可能性はある。でも、なぜこんなメールが来るようになったのか、その後、分かってきた。ハルビンの大学にいた時に同僚だった中国人の教授が僕をこのサイトに紹介したようなのだ。彼は僕より少し年下で、しゃれっ気は大いにあるが、堅物である。僕を紹介した理由は不明だけど、暇なのをいいことに、押し寄せるメールに目を通していたら、しんみりとさせられる文章も結構ある。

70歳の女性。「私は長年、一人で過ごしてきました。音楽が大好きで精神的には豊かでした。一人だから、何でも自由自在です。でも、頼るものがなく、寂しいです。縁があれば、二人で手を携えて、残された人生を送りたいです」

75歳の女性。「私たちの世代の人生は本当にいろいろなことがありました。健康にこれまで生きてこられたのは容易なことではありませんでした。そして、やっと楽しく暮らせる時期になったと思ったら、夫はあの世に行ってしまいました。孤独で寂しく感じることがよくあります。子や孫は私に孝行してくれますが、彼らにはそれぞれの仕事があり、忙しくて大変です。これからの人生をともにしてくれる方を探しています」

教え子の若い中国人女性はこれらを「詐欺」と言ったけど、もう少し年配の女性に聞くと、見方が違ってくる。以上のメールからは話がやや外れるが、老いて連れ合いを失った親のために子供たちが新しい伴侶を探してくる、そして、再婚した一方が病気などで倒れたら、その子供が引き取って面倒を見る――決して珍しい話ではないそうだ。でも、これは運のいい老人たちで、普通は子供に「誰か相手が欲しい」とは言い出しにくい。だから、一連のメールも「思い余ってのことかも知れない。詐欺なぞと決め付けては失礼でしょう」とのことだった。

僕はこれらのメールに直接に応えるつもりは全くない。だけど、中国社会を勉強するつもりで、もう少しお付き合いしてみたい。ところで、60歳代、80歳代の女性向け、あるいはおじいさん向けの伴侶探しのサイトなんてのも中国にはあるのだろうか? 野次馬根性がさらにかきたてられてきた。