見習いたい中国語の「外来語」表記

先日、中国語検定試験の「2級」を受けた。この試験は「一般社団法人 日本中国語検定協会」が年に3回ずつ、日本や中国の各地、それに香港、台北シンガポールでやっている。その「3級」を5カ月前に受けたら、図らずも合格してしまった。そこで、ちょっとうぬぼれて級を上げてみたのだが、今回は合否の発表を待つまでもない。惨敗がはっきりとしている。

もちろん、受験勉強をしなかったわけではないが、2級受験には実にたくさんの新しい単語が出てきて、とても覚え切れなかった。ただ、僕にとっては、新しい単語を眺めているうちに、あらためて感心し、勉強にもなったことがあった。それはインターネット関連の外来語を中国語が何とか「漢字」で表現していることだ。英語をそのまま「カタカナ」で垂れ流している日本語とは、かなり違う。

中国語でコンピューターを「电脑」(日本の漢字だと、電脳。以下、丸カッコ内は日本の漢字です)、ハードを「硬件」、ソフトを「软件」(軟件)と呼ぶのはもうずっと以前からだが、比較的最近の言葉では、タブレット型パソコンを「平板电脑」,スマホを「智能手机」と呼んでいる。ちなみに「手机」は携帯電話のこと、スマホなぞと言うより、智能手机のほうが、ずっと名が体を表している。  

インターネットの「ネット」には、「网」(網)という字が使われている。そのものずばりの訳語で、「ネットワーク」は「网络」(網絡)だ。「インターネットにアクセスする」は「上网」、「インターネットに夢中になっている人」は「网虫」、「ホームページ」は「网页」(網頁)、「コンピューターネットワーク」は「电脑网络」。どれも至って簡単であり、もっともである。「ダウンロード」は「下载」(下載)。これも分かりやすい。

ハッカー」は「鄢客」(黒客)。中国語の「鄢」にも日本語と同じく「悪い」「腹黒い」との意味がある。ハッカーを「悪い客」「腹黒い客」と呼ぶなんて、なかなかの「ブラックユーモア」である。ところで、ブラックユーモアという外来語を使ってしまったけど、この言葉を『岩波国語辞典』で引くと、「笑ったあとで、そのおかしみの背後にある不安・不吉・不気味さ・残酷さなどを感じ、ぞっとするようなユーモア」とある。実にまだるっこしい。中国語には「鄢色幽默」(黒色幽黙)という言葉があるが、日本語には訳語がないのである。ただし、中国語の「幽默」は英語の「ユーモア」の発音と似た漢字を使っているだけである。

本論に戻って、「オンライン」は「在线」(在線)。つまり、線の上に在る――従って「オンラインサービス」は「在线服务」(在線服務)、「オンラインショッピング」は「在线购物」(在線購物)、「ネットショップ」は「在线商店」。これらも至って簡単で、納得のいく訳語ではないだろうか。

中国語には日本語のように「カタカナ」のような便利な表記方法がない。英語を中国語にするのは大変である。例えば电脑のようにコンピューターを「意訳」したり、あるいは、幽默のように、ユーモアに「音訳」つまり発音の似ている漢字を当てたり、何かと苦労が多いのである。

だけど、日本語ではそれこそ何も考えずに英語をカタカナで表現し、事足れりとしている。そんな傾向がある。ハリウッド映画の題名だって、僕が子供の頃は一応、日本語に訳されていたが、今はほとんどが英語をそのままカタカナ書きにしている。私たち日本人は頭を使わな過ぎるのではないだろうか。

その例のひとつが、略称で「コンビニ」と呼ばれている「コンビニエンスストア」。英語のコンビニエンスは「便利」、「ストア」は「店」だから、直訳すれば「便利店」である。翻訳にほとんど頭を使う必要がない。現に中国では「便利店」と呼んでいる。これも、コンビニよりもずっと名が体を表している。どうして、日本でも便利店にしなかったの? もし、便利店というのがダサいと思うなら、じゃあ、日本語のカッコイイ名前をどうして考えなかったの?

日本語は古来、中国語から実にたくさんの言葉を学び、日本語にしてきた。しかし、近代になってからは逆に中国語が日本語から多くの言葉を学んできた。かの毛沢東も日本から来た言葉を駆使していた。経済、資本、階級、哲学、社会主義共産主義・・・皆そうである。「中華人民共和国」という国の名前の「人民」も「共和国」も元はと言えば日本語である。

でも、最近は「中国人に教えてやったぞ」と言えるような日本語が何かあるだろうか。まず思いついたのは中国語の「宅男」「宅女」。いわゆる「オタク」のことで、中国語ではなぜか男女別になっている。他にも「達人」とか「料理」とか、最近中国語になった日本語も結構あるようだ。でも、皆それほど自慢できるものではないみたい。ここはひとつ、中国語の外来語表記をじっくりと勉強して、我々も参考にしてはどうだろうか。