「NHKから国民を守る党」には「外国人」も期待している!?

今回の参議院議員選挙では「NHKから国民を守る党」(略称・N国)が議席をひとつ獲得した。選挙でこの党は、国政に対する態度は示さず、ひたすら「NHKをぶっ壊す」と繰り返していた。具体的には、NHKのテレビ放送にスクランブルをかけ、受信料を払った人だけが視聴できるようにしようというのだ。

いまNHKは、その放送を受信できる設備があれば、「見る」「見ない」にかかわらず、つまり全く見ていなくても、受信料は払うべきだとの立場だ。最高裁判所の判断もこれを支持している。

しかし、僕はN国と同じく、NHKのスクランブル化は合理的なことだと思っている。「公共放送なのだから、たとえ見なくても、カネを払ってNHKを支えろ」というのは、僕に言わせれば、全く筋が通らない。そして、もしスクランブル放送が実現すれは、「国民」よりも何よりも、今の日本に増え続けている「外国人」がほっとするだろうな、と思ったことである。

というのは、テレビがあっても、なくても、受信料を払っていないと、よくNHKの集金人がやってくる。日本の事情に慣れない外国人――僕が知っているのは、かつて中国で日本語を教えた中国人――にとっては、これは結構厄介なことであるのだ。その対応に困ってしまう。

あれから、もう6,7年も経つだろうか、中国の塾で日本語を教えた女性が名古屋の大学に留学してきた。初めての日本でちゃんと生活しているだろうか? 心配になって、彼女のアパートを訪ねてみた。

幸い元気そうだったが、ひとつだけ困っていることがあると言う。それはテレビもないのに、NHKの集金人がしょっちゅう来て「受信料を払いなさい」と責めることだとか。いきさつを聞くと、彼女がこのアパートに入ってすぐ、NHKの集金人がやってきた。年配の男性だった。もちろん、「テレビはありません」と答えた。嘘ではない。借金までして留学にこぎつけた彼女には、テレビを買う余裕なんて全くない。

しかし、「テレビもない貧乏人」と思われるのが、いささか恥ずかしかった。そこで、ワンセグの携帯電話を持ち出して「これにテレビも映るんですよ」と言ってしまった。普段、こんな小さな画面でテレビを見るなんてことはないのだが、集金人の目が光ったようだった。「ワンセグの携帯電話でも、NHKの放送を見られるのだから、受信料を払ってもらわないと困ります」。思ってもみなかった返事が戻ってきた。当然、彼女は「だって、見てないのだから・・・」と精いっぱい抵抗した。

集金人はいったんは戻って行ったが、以後、「払え、払え」と何度もやってくる。その攻勢に耐えかねて、彼女はアパートを替わった。すると、どうしてそれが分かったのか、すぐに同じ集金人がまた訪ねてきた。

僕もここまで聞いて、彼女に同情した。で、彼女を連れて、NHKの放送局まで行ってみた。営業担当の女性が出てきて、中国人留学生の話を熱心に聞き、彼女も同情してくれた。そして、どうやったら集金人の攻勢から逃れられるか、「秘密です」と言いながら、その方法を教えてくれた。以後、留学生からは受信料についての話はないから、多分うまくいっているのだろう。

この留学生から何年か遅れて別の教え子の女性も名古屋に留学してきたが、さすがに同じ轍は踏まなかった。「テレビはありません」だけで押し通している。もちろん、本当のことだ。ただ、アパートを替わると、NHKの集金人がすぐにやってくるのには驚いた。「どこからその情報を手に入れているのでしょうか?」。そして、2度、3度とやってくる。

日本で5年ほど働いていた年配の中国人女性からも、NHKの集金人の「怖さ」を聞かされたことがある。彼女は会社を変わったり、同じ会社でも転勤があったりして、東京と大阪で何度かアパートを替わった。

すると、彼女に言わせると、摩訶不思議なことに、アパートを替わるとすぐNHKの男性の集金人が訪ねてくる。それも、「NHKです」とは、はっきりと言わない。でも、NHKだと察して「うちにはテレビはありません」(これも本当のこと)とだけ言って、ドアを開けない。すると、「いえ、テレビはなくても、いろいろ役に立つ話もありますから」と、なかなか帰ってくれない。夕方、自宅に戻り、部屋の電気をつけると、すぐ「ピンポーン」ということもあった。どこかで待ち伏せしていたのだろうか。

ここまでNHKの集金人の悪口を書いてきたが、この人たちも別に悪いことをしているわけではない。それどころか、法律に基づいた正しい仕事をしているつもりだろう。だけど、集金人は僕が知る限り、おおむね年配の男性である。そのせいもあって、日本になれない外国人、とりわけ女性にとっては、結構な「恐怖」なのである。スクランブル放送さえ実現すれば、彼女たちが集金人に責められることも、恐怖を感じることもなくなるはずである。