今年の課題は「サブカルチャー」の勉強

あけまして おめでとう ございます
本年も駄文にお付き合いのほどをお願い申し上げます。

年末の日曜日、わが住まいに近い広西大学のキャンパスを散歩していた。体育館のそばを通り掛かると、コスプレ姿の女の子、男の子が出入りしている。中が騒がしい。窓からのぞくと、コスプレの大会か何かをやっているらしい。この世界には全く疎いのだが、入ってみた。特設の舞台ではコスプレ姿の10人ほどが踊っている。体育館の床をコスプレ姿の連中が行き来している。そのうちにコンテストでもあるのだろう。コスプレ姿と一緒に何枚も写真を撮った。みんな気軽に応じてくれる。


でも、コスプレの元になった漫画やア二メが何なのか、僕には全く分からない。日本のものなのか、そうでないのかも分からない。あとでわが塾の生徒に聞いたら、上の写真2枚はともに日本発のものらしい。

その塾の生徒たちから「次の日曜日、塾の教室を使って有志でパーティーをやります。来賓としてご出席下さい」との案内が来た。塾の教室を使うのだから、本来なら僕や相棒の中国人の先生が管理責任者としていろいろと口も出すべきだろう。が、生徒たちが「自分たちだけでやってみたい」と言うので、放っておいた。出し物も20ばかり用意しましたと言う。日本語の勉強をそっちのけにして毎日練習しているみたいだ。

当日、赤ワイン何本かとケーキを差し入れて、相棒の先生ともども行ってみたら、パーティーとは言うものの、これもコスプレ大会であった。広西大学の際と同じく何のコスプレなのか、僕にはさっぱり分からないが、みんなは普段以上に生き生きとしている。歌、踊りから漫才まで、ひとつの出し物が終わると、その出演者がすぐ観客になり、それまでの観客がたちまち出演者に変わる。

写真の服装なのだが、向かって右端はたまに街中でも見かけるそうだ。塾にこんな格好でやってきた子もいると言う。真ん中の青い服は、随分と今日はおめかししてきたな、と思っていたら、これもコスプレとのこと。へぇ〜 知らなかった。無知な僕は説明を聞いて、ただただ口あんぐりであった。

で、こんな衣裳をどこから手に入れてきたの? そう聞くと、コスプレを10着、20着と集めている友達や知り合いがいて、そこから借りてきたとのこと。そう言えば、一応は塾生なのだが、最近は勤め先が遠方になってあまり顔を見せなくなった女性――もう30歳を過ぎたのに、この趣味が収まらず、まだ次々とコスプレを買い込んでいるとの噂を聞いた。街中にはコスプレを専門に作っている店も何軒かあるそうだ。

日本のコスプレつまりサブカルチャーが中国の若者にどうしてこうも受けるのか? わが塾の生徒は日本語を勉強しているのだから、興味を持つのは当然とも言える。しかし、それ以外にこちらの「学校生活」にも原因がある。僕はそんな気がする。

塾の生徒たちから話を聞くだけだが、この国では特に高校の3年間は受験のための勉強、勉強で、まさに「地獄」なんだそうだ。塾生のある女の子は高校時代、先生から「水をあまり飲むな」と言われた。水をたくさん飲むと、トイレに行く回数が増える。その分、勉強の時間が減る。そんな理由だった。勉強に差し障りがあるからと、スポーツ禁止の高校も少なくないそうだ。

最近、日本に留学した塾生の男の子は「日本のアニメやドラマ、それに歌のおかげで、無味乾燥な高校生活を切り抜けられました。こういうものがなかったら、僕はつぶれていました」と述懐していた。桂林での塾の頃、塾生で医学生の女の子は高校時代、失恋で死にたいとまで思い詰めた。その時にたまたま日本のアニメに出会って勇気づけられ、自殺を思いとどまったと言う。これは学校生活とは直接の関係はないお話だけど、日本のサブカルチャーはこの地の若者の精神の安定にも随分と貢献しているようなのである。中学時代に見たアニメ『テニスの王子様』に影響され、大学に入ってテニスを始めたと言う塾生も何人かいる。

先日、パソコンをいじっていたら、中国の有名歌手が「初音ミク」のコスプレをやったものの、本物とかなり違っていたので非難された、との記事が目についた。初音ミク!? もちろん僕には初めて聞く名前だ。周りの生徒に尋ねてみたら、「先生、それはですね・・・」と、競うように説明してくれた。

日本語、つまり「日本」を教えていながら、日本のサブカルチャーにこれほど無知とは、お恥ずかしい限り。今年はその勉強に励まねば、と思っている。