中国を知らない日本人 日本に詳しい中国人

「中国にはスマートフォンスマホ)はありますか」
「LINE(ライン)は?」
「中国にはマグドナルドやケンタッキーフライドチキンKFC)みたいなファストフードの店はありますか」
「中国には傘はありますか」
「中国人は家庭で料理を作りますか」

日本に勉強や仕事で来ている中国人の僕の教え子たちが、仲間の日本人からこんな質問を受けることがある。あまりのばかばかしさに答える気にもならないそうだ。代わりに僕が答えると――

中国にはスマホもLINEももちろんある。それどころか、日本よりもずっとはまり込んでいるみたいだ。数年前だが、上海の地下鉄で電車の前から後ろまで2回歩いてみたら、乗客はまあスマホスマホスマホ・・・日本なら本や雑誌、新聞を手にしている人が少なからずいる。

次のマグドナルドやKFCもたくさんある。僕が見た感じだと、中国人はKFCのほうが気に入っているのか、マグドナルドよりずっと多かった。中国生まれのファストフードのチェーンもあった。その次の傘、家庭で料理・・・僕も答える気がしなくなった。

でも、以上の質問は単純でまだかわいいけど、「中国でも還暦のお祝いをやりますか」というのには、質問された中国人も少し困ってしまった。還暦だの古希だのはもともと中国の風習である。でも、事を荒立てたくはないので、「ええ、やりますよ」と答えたら、質問した日本人の女性は「あら、日本の風習が中国でも広まっているんですね」と満足そうだった。

「昭和、平成といった年号は中国でも同じように使っているんでしょうね」という質問も、中国人を困らせる。

こんな話もある。日本の会社に就職した中国人女性が周りから「あなたは不法滞在だろう?」と言われた。彼女は「確かに、中国人に限らず不法滞在の外国人もいるでしょうが、私は違います。第一、日本で税金を納めていますし、健康保険、介護保険などの社会保険料もきちんと払っています。どうして不法滞在ですか?」と反論したが、どうも分かってもらえない。上司のひとりが「妻の話だと、日本にいる中国人はみんな不法滞在だそうだよ」と言い、お開きになった。

ネットで読んだ『ダイヤモンド・オンライン』に「中国人が日本の医療にタダ乗り! 高額のがん治療で」という記事が載っていた。それによると、がんなどの病気治療で日本に来る中国人が増えているが、普通は「医療滞在ビザ」で入国する。この場合は日本の健康保険とは関係がないから、治療にかかった費用はすべて負担しなければならない。

ところが、最近は「経営・管理ビザ」で入国して病気の治療を受ける中国人が目立ってきた。つまり、日本で会社を経営することにしてビザを取得する。会社はいわゆる「ペーパーカンパニー」だが、この会社の経営者である中国人は日本の国民健康保険に加入できる。と言うより、国民皆保険の日本では加入が義務づけられる。もちろん、保険料を負担しなければならないが、その結果、医療費が「3割負担」ですむことになる。

こういう中国人は1000万円、1500万円といった高額の薬代がかかる治療を目的に来日すると記事は言う。自分は3割だけ払って帰国し、残り7割は日本側の負担になる。まさに、日本の健康保険制度を悪用しているわけだが、僕は記事を読んで、怒るよりも思わず噴き出してしまった。

日本側でも中国人か日本人かが手引きしているのだろうが、何よりも中国人が日本のことをよく知っているからこそ、実現してしまった話である。もちろん、日本側としては今後、こうした犯罪まがいのことを防がなければならないが、とりあえずは「賢いね。あっぱれ」とでも言ってあげたい。

一方の日本人は「嫌中」と言われるようになって久しい。嫌いでもいいから、とにかく相手を知ることが大切だと思うのだけど、旅行会社の店頭からは中国旅行のパンフレットまでが姿を消してしまった。台湾、香港、マカオ旅行のパンフレットはあるが、大陸の中国はとんと見かけなくなった。

ところが、先日「北京・西安5日間」「上海4日間」などという15ページのパンフレットを旅行会社の店頭で見つけた。実に久し振りのことだ。思わず手に取ると、「今こそ中国へ」とある。おや、潮目が少しは変わりつつあるのだろうか。