始めてみた水中ウオークと水泳

前回に書いたように、かつては「健脚」を誇った僕も、今や結構ガタがきているらしい。ときどき、自宅の近くをジョギングしているけれど、なにか別のこともやったほうがいいようだ。そうだ、「水中ウオーク」「水中散歩」はどうだろうか。整形外科の医者にも勧められたことがある。

探してみると、自宅からそう遠くないところに、悪くはなさそうな「スイミングクラブ」があった。月会費が6500円ほどで、25メートル、7レーンのプールがある。水中ウオークから水泳まで、いろんなレッスンに指導員がついて教えてくれるようだ。さっそく入会した。

プール通いの初日、まず水中ウオークの30分間のレッスンに参加した。指導員は20歳代の女性。生徒は僕以外に10人、それもみんなおばさんたち。いや、おばさんと呼ぶより、もう少しお年を召した方もいらっしゃる。僕はコンタクトレンズをはずしてきたので、はっきりとは見えないのだが、そんな感じだった。

その後、水中ウオーク以外のいくつかのレッスンにも参加しているが、10人前後の生徒のうち、男はいつも僕だけである。プール全体を見渡しても、大人では女性がほぼ90パーセントを占めている。一般に男性よりも女性が元気なのは、このあたりも影響しているのだろうか。昼間のレストランが女性でいっぱいなのを見て感心していたが、なにもレストランに限ったことではなかったのだ。

ところで、肝心の水中ウオークのことだけど、ただ普通に歩けばいいのだろうと思っていた。だが、レッスンを受けてみると、大違いだった。まず、前向きに歩くだけではなく、後ろ向き、横向きにも歩く。同じ前向きでも、精一杯の歩幅で歩く。太腿で、あるいは足の甲で、水を蹴り上げながら歩く。体を左右にひねりながら歩く。飛び跳ねながら歩く。片手で交互に反対側の足の裏をたたきながら歩く。

足で「グー、チョキ、パー」をしながら歩くのもある。グーは両足をそろえる。チョキは片足を前、もう一方を後ろにする。パーは両足を左右に広げる。ついでに、手でもグー、チョキ、パーの形をつくり、足がグーの時は手はパー、足がチョキの時は手はグー、足がパーの時は手はチョキにする。つまり、手が足に常に勝ちながら歩くのである。さらには、足がグーの時は手はチョキ・・・つまり、手が足にいつも負けながら歩く。頭が混乱してくるが、脳の運動にもいいのだろう。おばさんたちが2〜3人で話しながら歩いていたりもする。世間話とウオークの一石二鳥といったところだろうか。

歩くだけではなく「水中ジョギング」というのもある。陸上に比べて走りにくいこと、おびただしい。

今のところ、水中ウオークは週に3回ほどやっているが、せっかくだから「水泳」もやってみよう。パンフレットを見ると、「初級」「中級」「上級」のレッスンがある。僕は中学生のころには、体が浮きやすい海での平泳ぎだけど、かなり長い距離で試験に通ったことがある。その後、水泳にはご無沙汰が続いているが、まあ、少しは泳げるだろう。とりあえず、初級のレッスンに出てみた。

その初日、レッスンが始まって早々、僕はショックを受けた。顔を水につけた時、どう息をしたらいいのか、それさえ分からない。若いころ、かなり泳いだことがあると言っても、顔を水につけたことがほとんどない。僕は初級のレッスンにさえ、つきあえない。「すみません。ちょっと・・・」と断って、その場を離れた。

がっかりしながらもう一度、プールのパンフを眺めていると、「初心者水泳」というレッスンが目に入った。初級の下のクラスで、週に1回、わずか20分だけだが、「泳げない方向けの入門クラスです。顔つけ(水慣れ)からバタ足までを目標に練習します」とある。

かっこよくはないけれど、まずこのクラスからだ。レッスンでは、指導員が顔を水につけた時の息の仕方から教えてくれた。でも、今のところ、周りのおばさん、おばあさんと比べて、僕が一番へたである。石川啄木の「友がみな われよりえらく 見ゆる日よ・・・」という歌が頭に浮かんできたりする。

更衣室で僕よりは若そうなおじいさんが話し掛けてきた。「私はプールに来るようになって、もう5年目なのに、まだ25メートルを続けて泳げません。情けない。でも、死ぬまでには、泳げるようになりたいです」。プールに併設の小さなサウナで一緒になったおばさんは「1年半になるんですけど、最初は水の中を歩くのさえ怖かったです」。

顔を水につけて、やっと10メートルかそこらを泳げるようになった僕ではあるが、そんな話を聞いていると、啄木ほどには悲観する必要もなさそうだ。プール通いを始めてからまだ2カ月だ。ウオーク以外に水泳も、当分は頑張ってみようと思っている。