見直したよ 今どきの高校生

学校の秋の「文化祭」の季節である。僕がよく使う関東の私鉄、東武東上線の駅には、主に沿線の高等学校の文化祭のポスターがいっぱい貼ってある。じゃあ、ひとつ行ってみようか。まずは、僕が住んでいる埼玉県川越市にある県立川越高校(通称、川高)の文化祭「くすのき祭」に初めて出かけた。正門のそばにある大きな「クスノキ」が名前の由来で、明治32(1899)年設立の男子校だ。在校生は1,100人ほどである。

駅からはやや離れた場所にあり、校門もあまり目立たないが、くすのき祭の日はかなり離れたところからでも、入口がよく見える(写真上)。校門と並んで、大きな「門」がそびえているからだ。くすのき祭のパンフレットを読むと、門はウクライナの首都キエフにある「聖アンドリーイ教会」を模したものだそうだ。なぜ、この教会なのか、理由は書いてなかった。

高さは12メートルほどあり、地元紙の『埼玉新聞』によると、巨大な門作りは川高の伝統で、くすのき祭実行委員会の中にある約80人の「門班」が、設計から木材の調達、建築までを担って、1年ほどかかったとか。去年の門はカザフスタンの教会で、毎年モデルは変わり、城の時もあるそうだ。

ところで、このくすのき祭での売り物のひとつは、水泳部による「シンクロ公演」であるらしい。男子校だから、演じるのはもちろん男の子だけである(写真上)。1988年に始まった。2001年の日本映画『ウォーターボーイズ』のモデルにもなった。僕もかねがね噂だけは聞いていた。くすのき祭2日間のうち、1日目は30分の公演を6回、2日目は30分を4回、45分を1回やる。まずは1日目に行ってみた。

公演中は撮影禁止で、上の写真は水泳部のツイッターから借用した。女性によるシンクロナイズドスイミング(最近はアーティスティックスイミングと呼ぶそうだが)に比べると、こちらは同時に演じる人数が40〜50人もいて、迫力満点である。少々の不揃いがあっても帳消しで、とにかく圧倒された。

そうは言うものの、たかが高校の文化祭で「撮影禁止」とは生意気だなあと思っていたら、公演の終了後、「これから皆様の記念撮影に協力いたします」との放送があった。見ていると、男の子たちが三々五々、プール脇に散らばって、観客との記念撮影に応じている(写真上)。次の公演は30分後だから、こんなことをしていたら、休んでいる暇もない。そのサービス精神にまた圧倒され、さっきの不満は吹っ飛んでしまった。

2日目もまたシンクロを見たくなり、この日は公演時間が45分の最終回に出かけた。雨が降ったりやんだりで、プールの脇の観客はレインコートをかぶったりしている(写真上)。悪天候のなか、プールをぐるりと1,000人ほどの観客が取り囲んでいるのだが、僕の位置からのカメラでは全体がとても入らなかった。2日間の11公演の観客数は計7,836人だったそうだ。

次の土曜と日曜は、同じ川越市にある県立川越女子高校(通称、川女)の文化祭「紫苑祭」に出かけた。文化祭をのぞくのは初めてだ。男子校の川高とほぼ同じ規模の女子高で、明治39(1906)年設立と、ここも歴史は古い。川高に比べると、小振りだけど、水色の「門」が迎えてくれる(写真上)。

ここの売り物のひとつは、2日目に体育館で行われる40分ほどの「ファッションショー」らしい。開演30分ほど前に行くと、すでに100人やそこらが行列している。時間が来て体育館に入ると、中ほどに舞台が設けてある。椅子席と立ち見を合わせると、1,000人は集まったようだ。

やがて、場内が暗くなり、ライトに照らされた舞台には次々にモデルが登場する。もちろん、川女の生徒である。ここも撮影禁止だし、モデルや衣装の良し悪しは僕には全く分からないのだけど、場内は「キャー、キャー」と、まさに興奮の坩堝(るつぼ)となっている。

ここまで「門」や「シンクロ」「ファッションショー」だけについて書いてきたが、催し物はもちろん、まだまだいっぱいあった。川高、川女の両校はいわゆる進学校で、川高の卒業生からは近年、ノーベル物理学賞の受賞者も出ている。そんな高校なのに、「祭」に注ぐ力は生半可ではない。2日間の文化祭で集めた観客数は川高が15,224人、川女が13,308人だったそうだ。高校の文化祭が地域に溶け込んでいる。校門などでの送り迎えのあいさつも礼儀正しい。今どきの高校生を見直してしまった。