今年のキーワードは「この社会は生病了」だ

「生病了(ションビンラ)」は中国語である。中国人の友人が「最近の中国では『这个社会生病了』(この社会は病んでしまった)という言葉が流行しています」と教えてくれた。

へえ〜、たとえば、どんな話が?と聞くと、まずは、映画業界で横行する脱税。人気女優のファン・ビンビンさんが税務当局から追徴課税や罰金などを合わせて約146億円の支払いを命じられた。中国人には、その美貌と裏腹の強欲さがショックだったらしい。

もっと身近なものとなると、たとえば、中国南方の景勝地・桂林に多い「モクセイ」並木の受難。中国語では「桂花」で、この季節にはそこはかとない香りが街中に流れる。街路樹になっているそのモクセイの下に、おばさんたち数人が大きなビニールを広げ、木の幹をゆすったり、枝を棒でたたいたりしている。花を落とすためだ。ジャムの原料などになるのだが、おかげであたりからはあの香りが消えてしまう。花泥棒に注意する人は誰もいない。

舞台は変わって日本。テレビをぼんやり眺めていたら、この夏、湘南であった花火大会が終わってからの会場の様子が映っていた。一面、ゴミだらけである。画面はやがて、どこかの桜の名所で花見が終わったあとの風景に変わった。やはり、ゴミの山である。次は東京・池袋の繁華街。深夜の様子が映った。街路はやはりゴミ、ゴミ、ゴミ・・・。

エッ、日本人って、ゴミをポイポイと捨てない民族じゃなかったの?時代遅れの自分に驚くと同時に、今年の元日、日本在住の中年の中国人女性から聞いた池袋の話を思い出した。

彼女は関西方面から訪ねてきたやはり中国人の留学生の女性を連れて明治神宮に初詣に行き、元日の朝2時ごろ、自宅にそう遠くない池袋まで戻った。街路にはゴミが散らかっている。郊外電車はもうないので、タクシー乗り場に並んだ。100人近くが立っている。飲み物や食べ物を手にしている連中が多い。そして、順番が来てタクシーに乗り込むと、飲みかすや食べかすをポーンと外に捨てていく。

彼女は泣きたくなった。留学生を自宅に泊め、初詣にまで連れて行ったのは、ひとつには「自慢」したいことがあったからだ。それは、日本の民度は一般的に高いけど、なかでもここは首都の東京よ、あなたのいるところとは少し違うでしょ、私はその東京に住んでるのよ――そんな目論見が粉みじんになってしまった。

話はまた少し変わるけど、僕が若い頃は「日本は政治家はダメだけど、経済人と官僚がしっかりしている。そのおかげで、日本はもっているんだ」という言葉をよく耳にした。経済記者だった僕は企業や中央官庁を回ることが多かったが、確かにそんな感じがした。見方が甘かったのかもしれないけど、みんな、なかなかの人物だった。

ところが、今や、企業は不祥事発覚のオンパレードである。えっ、あの企業がまさか?と思うようなところが、次々に検査データの改ざんとかをやってくれる。それも繰り返したりする。財務省文部科学省といった役所も不祥事に事欠かない。おまけに、最近は大学でも次々に不祥事が暴かれている。政治家は昔も今も同じようである。

这个社会生病了。日中平和友好条約締結40周年の今年、日中両国は仲良くこの言葉を共有することになってしまったみたいである。