「水々しい」人を目指して

散歩していると、どうも膝から下が少し不快である。血の巡りが悪いみたいな気がする。指で皮膚を押してみると、ややへこむようでもある。今まで罹ったことはないが、「脚気」かもしれない。近くの内科・外科の医院に行ってみた。ごくたまにしか行かないところだが、老先生はなかなかに親切である。そして、たちどころに「これは脚気なんかじゃないです。もし心配なら、血液検査、レントゲン写真、心電図……久しぶりに調べてみますか」とおっしゃる。

翌日、血液検査などの結果を聞きに行くと、「心臓が弱っているようですな」。エッ!? 生まれてこの方、そんな話は聞いたことがない。もともと厚かましい人間なので、先輩から「お前は心臓に毛が生えている」と言われたことさえある。なのに、心臓が弱ってるって、どんな感じなんですか? 老先生は両手で心臓の形を作って動かしながら「こうやって心臓から体中に血液を送り出す力が弱まっているみたいです」。そして、「NT-proBNT」という検査項目の数値が高いことを示して、「2週間分の薬を処方しておきます。薬がなくなった頃にまた来てください」とのことだった。

家に戻ってから、医者に貰ってきた「検査結果報告書」を見ながら、自分でいろいろと調べてみた。分かったのは、NT-proBNP とは心臓から血液中に分泌されるホルモンの一種で、心臓の機能が弱まって心臓の負担が大きくなるにつれ、分泌量が増えていく。正常な値は(単位は省略して)「0~125」なのに、僕の場合は「678」もある。そして「心不全」の可能性があるそうだ。心不全の意味は今までほとんど知らなかったが、心臓の機能低下で十分な血液が送り出せなくなった状態のこととか。膝から下の血の巡りが悪いように感じるのはそのせいかもしれない。

そして、ひらめいた。そうだ、僕は水をあまり飲まない、一方でアルコールの摂取量は人並み以上に多い、当然、血はドロドロになり、十分な血液が体中に流れない原因になっているのではないか。脚の不快感もそこから来ている。素人判断ながら、そう思い至った。

僕は定期的に慶応義塾大学病院の「腎臓・内分泌・代謝内科」に通っているが、行くたびに女性の先生から「お酒を飲む時には必ず水を一緒に飲んでくださいね」と諭される。「はい」と答えるものの、実践したことはない。「漢方」に詳しい中国人の知人からは「あなたの場合は、1日に2リットルの水が必要です」とも注意されてきた。なぜか接骨院で、朝昼晩にコップに水を1杯ずつと言われたこともある。どれも無視してきた。

一方でアルコールの方は、最近はもっぱら「家飲み」だが、夕食時にまず500ミリリットルのビールを1缶、お燗した日本酒を1合ほど飲み、しばらく休んでから、オンザロックウイスキーをちびちびとやっている。1リットルのウイスキーの瓶が4~5日でなくなるペースだ。しかも、夜中にトイレに頻繁に起きたくないので、就寝時間が近づくにつれて、オンザロックの氷を減らし、ストレートに近い飲み方になる。

さすがに、酒量がいささか多めだとは思うけれど、二日酔いになることは全くない。肝臓の数値も悪くはないので、酒量を減らしたり、「休肝日」を設けたりするつもりも、当面はない。ついては、毎日飲む水の量を増やす、とりわけアルコールの摂取時には積極的に水を飲んでいこう。後ろ向きではなく、前向きに闘っていこう。

ネットで調べてみると、日本酒と一緒に飲む水は「和らぎ水(やわらぎみず)」と呼ばれたりしているそうだ。初耳の言葉だが、悪酔いしにくくなる、二日酔いを防ぐ、脱水症状を防ぐ、胃への負担を減らす、といった効き目があるとのこと。

一方、ウイスキーなど洋酒と一緒に飲むのは「チェイサー(CHASER)」と呼ばれているが、これは水に限らず、アルコール度数のより弱いもの、例えばビールをストレートのウイスキーと交互に飲めば、ビールがチェイサーだそうだ。このことも、飲み助の割には不勉強で、今まで知らなかった。

ウイスキーとビールの交互飲みも一度は試してみたいけれど、当面は「アルコールと水を交互に飲むこと」をきちんと守っていきたい。そして、水をがぶがぶ飲むだけで可能かどうかは不明だが、今よりいくらかは「水々(みずみず)しい」人になれるのではないか。「水々しい」は「瑞々しい」と書くのが普通のようだが、「水分をたっぷり含んでいる」様子、つまり「新鮮な」「若々しい」「つや・張りがある」様子などを意味している。