枝豆 バーボン 甘納豆

村上春樹氏が30歳代の頃に出した『村上朝日堂』(新潮文庫)という本がある。ご本人によると「僕にとってのはじめての雑文集のようなもの」である。読んでいくと「そば屋で飲むビールって本当にうまいんだから」とある。理由は、都会に住んでいると「昼飯どきにそば屋でビールを頼んで変な顔をされないだけでもありがたい」。「食堂車で……僕がとくに気に入っているのは、朝からビールが飲めるということ」ともある。理由は「朝の10時ごろからけっこうみんなビールを飲んでいるから……まったく違和感がない」。

「ぼくはカレーライスが好きなのでよく食べる。1週間に3回は食べている」「ぼくにもしも最後の晩餐がゆるされるのだったら迷うことなく注文する。カレーライス、……」という雑文もある。

村上氏は今や毎年、ノーベル文学賞の候補に挙がる人である。でも、この雑文集は実にくだらない話で埋められている。僕の駄文ブログと五十歩百歩かもしれない。おまけに、僕もビール(正確に言うと、ふだん飲むのは値段の安い「第三のビール」だけど)とカレーライスが大好きである。ビールが飲めない日なんて、考えたくもない。カレーライスはもちろん日本風のやつで、毎日でもいい。つまり、好物の定番は村上氏と同じくビールとカレーライスだが、最近は欠かせない好物が新たに三つばかり加わった。村上氏のくだらなさに勇気づけられて、そんな話を書いてみる。

まずは「枝豆」である。「ビールに枝豆」ということは、それこそ昔々から聞いてはいたが、なぜか積極的に枝豆をつまみにとの気にはならなかった。それが昨年夏ごろ、近くのスーパーマーケットで、パック入りの枝豆がたまたま目についた。塩ゆでしたもので、1パック200円から300円程度。試みに買って帰ってビールのつまみにしたら、これがなんともおいしい。まさに病みつきになり、毎日食べるようになった。

ところが、そのうちに枝豆が店頭から姿を消してしまった。店員に尋ねると「もう季節を過ぎましたから」とのこと。困ったなあ。それで、わが家からはかなり遠い別のスーパーをのぞいてみた。なんとまだ山積みにして売っているではないか。冷凍ものだろうが、枝豆は枝豆である(下の写真)。ちゃんと食べられる。冬になり、正月を過ぎても、店頭から消えることはない。枝豆を求めて、日課のようにこのスーパーに通うようになった。
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枝豆の次に病みつきになったのが、アメリカのウイスキー「バーボン」である。以前、このブログで「我がウイスキー歴」というのを書いたが、当時はもっぱら日本の安ウイスキーを飲んでいた。ところが、ある時、たまたまスーパーで買ってきたバーボン「ジムビーム」を飲むと、あ、これのほうがいいじゃないか、となってしまった。もちろん、過去にもバーボンは飲んでいた。現役の新聞記者の頃は、バーに入ると「I.W.ハーパー、ロック、ダブル」なんて粋がっていた。「ロック」とは「オンザロック」のことだ。
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ジムビームはI.W.ハーパーなんかに比べバーボンの中では安いが、このほうが僕の口に合う。2・7リットル入りのペットボトル(上の写真)を4千円ちょっとで買ってきて、1リットルの瓶に小分けして飲んでいる。

枝豆、バーボンの次が「甘納豆」である。これはあるテレビ番組がきっかけだ。TBS系で「吉田類の酒場放浪記」というのがあって、僕は時々、ちらちらと眺めている。題名の通り、「酒場詩人」とも呼ばれる吉田氏が居酒屋を巡り歩く番組だ。そして、居酒屋に入る前に、吉田氏が近くの商店をのぞく場面もおまけのように出てくる。ある日、彼は甘納豆屋に入り、試食していた。甘納豆なんて、ほとんど食べたことがないが、うまそうだ。近くのスーパーで買ってきた。
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食べ始めると、なかなかやめられない。スーパーには100円と50円の2種類の袋がある。最初は100円の袋を買っていたが、甘いものを食べ過ぎるのもよくない。最近はもっぱら50円の袋(上の写真)を買うことにしている。1回分にちょうどよい量である。

かくして、夕暮れ時には枝豆をつまみながらビール、夜が更ければ、つまみを甘納豆に変えてバーボンのオンザロック。なかなかに乙な我が人生である。