節酒にノンアルコールビールは是か非か

新聞に嫌な記事が載っていた。なんでも、1日にビールで500ミリリットル、日本酒だと1合程度を飲んでいると、大腸がん発症の危険が高まるのだそうだ。厚生労働省が国として初めて「飲酒ガイドライン」を作るとかで、その中にはこうした数字が示されている。

コロナ禍もあって、最近はもっぱら「家飲み」中心の僕だが、夕食の際にはまずビール(正確には値段の安い第3のビール)の500ミリリットル缶を開け、あとはウイスキーオンザロックに切り替えて、寝るまでチビチビやっている。ウイスキーは1000ミリリットルの瓶がだいたい4日程度で空っぽになる。やや多いとは思うけど、二日酔いになることもない。その僕に対して、ビールの500ミリリットル缶ひとつでも危険だと言われると、「証拠を示せ」と叫びたくもなってくる。

思えば、学校を出て新聞社に就職し、定年退職して中国の大学に行き、そして今日に至るまで、酒を飲まなかった日なんて、網膜剥離や脊柱管狭窄症の手術で入院していた期間を除くとほとんど記憶にない。わずかに思い出すのは、入社して間もない九州の佐賀支局でのこと。連日、それこそ浴びるように飲んでいたら、胃の調子が悪くなった。医者に言われて数日、酒を断っていると、やはり飲み助の支局長から「君は偉い」と褒められた。

その何年後だったか、東京の経済部にいた折、大蔵省(現財務省)主催の勉強会が富士山麓のYMCAの寮であり、僕も泊まりがけで出席した。それはそれでいいのだけど、ここにはアルコール類がいっさい置いていなかった。夜、街に出るには遠すぎるし、時間も遅い。朝方までベッドで悶々としていたのを、いまだに覚えている。

結局、学校を出てこれまでの約60年間で、自主的に酒を飲まなかった日は、通算して1週間かそこらだったのではないだろうか。でも、「ビール500ミリリットルで大腸がん」なんて言われると、少し怖くもなってくる。

じゃあ、ちょっと妥協して「休肝日」なるものでも設けてみようか。朝日新聞を眺めていると、「相棒だった酒 今や週6休肝日」という71歳の男性の投書が載っていた。なんでも、肝機能障害の指標となる数値が極端に悪かったので、退職後、週1回の休肝日を設けた。そして3年間、様子を見たが、数値は一向に改善しない。そこで、休肝日を思い切って週6日にしてみると、数値は瞬く間によくなった。今ではそれにすっかり慣れ、週に1回飲む酒がうまいとのことだ。

僕にはそこまでやる勇気はない。でも、そうだ、ノンアルコールビール(以下はノンアルビールと表記)で休肝日というのはどうだろうか。ふと、そう思いついた。年に何回か、一緒に飲むことのある新聞社時代の先輩は何年か前に脳梗塞で倒れ、今はもっぱらノンアルビールを飲んでいる。そして「ビールはやはりうまいなあ」とつぶやいている。決して飲めないものでもなさそうだ。

「選択」という雑誌を読んでいたら、米欧に始まった「ソバーキュリアス(選択的非飲酒習慣)」が日本でも静かに広まりつつあるという記事が出ていた。ソバー(sober)は「しらふの」「酒を飲んでいない」、キュリアス(curious)は「興味がある」といった意味の英語だ。記事によると、大規模なパーティーでは普通、キリン、アサヒ、サッポロ、サントリー4社のビールが卓上に並ぶが、最近ではさらに4社のノンアルビールも並べられているそうだ。

さっそく4社のノンアルビールを買ってきた。キリンは「グリーンズフリー」、アサヒは「ドライゼロ」、サッポロは「ザ・ドラフティ」、サントリーは「オールフリー」という銘柄だ。サッポロだけはアルコール分が0.7%で、あとは3社とも0.00%と表示されている。ちなみに、酒税法では、アルコール分が1%未満であれば酒類にならない。つまり、アルコール分が0.00%から0.99%までは「ノンアルコール」と表示できる。

で、試飲の結果だけど、いやあ、まずい、まずい。アルコール分0.7%のサッポロには少しだけ期待したが、とても飲めたものではない。ノンアルビールによる休肝日の設置はあきらめるしかない。でも、大腸がんも心配だ。そこで、また思いついた。これまでは夕食から寝るまでずっと飲み続けていたが、夕食後、2階の自室に上がって、本を読んだり、パソコンに向かったりしている間だけは、酒を飲まないことにしよう。休肝日ならぬ「休肝アワー」である。さっそく、これを励行している。