「NDNDA」「SUKUZU」って日本ブランド?

中国では「HONYDA」というブランドの二輪車がある。そういう話をどこかで聞いたことがある。言うまでもなく「HONDA」のパクリである。いや、ほんの少し注意すれば本物でないことはすぐ分かる。パクリではなく「もどき」と言ったほうが正確だろうか。で、わが桂林ではどうか? 歩道に駐車しているスクーター、バイクに注意しながら街中を歩いてみた。ある、ある、1時間ほど散歩していると、必ず「HONYDA」ブランドにお目にかかる。同時に、これ以外にも日本ブランドの「もどき」が次々と目に飛び込んできた。

「NDNDA」というのがあった。一瞬「HONDA」と読んでしまったが、本当はなんと発音するのだろうか? 車体の側面につけたブランド名が中国メーカーのものでも、お尻につけた金属製の板で「本田」を名乗っていたりする。それも「日本技術 日本本田」「本田之星 日本・本田車業発展有限公司」「本田王子」「建設本田王」といった具合に、名前に工夫を凝らしている。ところで、「建設本田王」って、どういう意味? わが塾の生徒たちに聞いてみたが、分からなかった。車体の側面に堂々と「HONDA」とあっても、その上に小さく別の名を冠していたりする。「本物ではありません」とのお断りだろうか。


次には「YAMAHA」もどき。「ヤマハ」は漢字で表せば、「雅馬哈」あるいは「雅瑪哈」となる。従って「YAMAWAN」「NANYA YAMAHA」「南方・YAMANA」のほかに「重慶YAMAHA 日本雅馬哈国際投資集団有限公司」「雅馬哈之星 YAMAHA−ZX」「富士—雅馬哈 FUSHIYAMAHA」「豪程・雅瑪哈 HCYAMAHA」「天馳雅馬哈 TIANCHI・YAMAHA」などと名乗っている。


やはりお尻にこれらをぶらさげていて、車体の側面にはその二輪車の本来のロゴがあったりする。あるいは、車体に「YAMAHA」とあっても、字体が本物とは全く違っていたりもする。中国の地名を頭につけた「○○YAMAHA」は、ヤマハの関連会社の可能性もなしとはしないが、本物の「YAMAHA」なら、お尻にこんなに仰々しい板をぶら下げたりはしないのではないか。

最後に「SUZUKI」もどきである。日本の二輪車メーカー4社のうち、どういうわけか、「Kawasaki」を見かけず、そして「もどき」の世界では「SUZUKI」に圧倒的な人気がある。ざっと見たところ「HONDA」や「YAMAHA」の2倍や3倍の「SUZUKI」もどきが存在する。

その中でよく見かけるのが「鈴木之鷹 SUKUZU」なるブランド。青地の金属板に「鈴木」は白、「之鷹」は赤、そして「SUKUZU」は白で記されている。色の取り合わせが別のもあり、ともになかなかにカッコイイ。「鈴木之星 SUZKUL」「鈴木之王 SUKUZL」と、デザインまで「鈴木之鷹・・・」と同工異曲の奴もいる。「もどき」の「もどき」だろうか。また「SUZUKI」もどきには「王」の付く奴が多く、さっきの「鈴木之王」のほか「鈴木王」「鈴木王之星 SUKZUI」「現代鈴木王」「上海鈴木王」「鈴木王中王 日本新奥雅瑪哈株式会社有限公司」なぞと威勢がいい。しかも、前記の「鈴木王中王・・・」には「鈴木」と「雅瑪哈」の2社の名前が一緒に登場している。「深圳鈴木王 深圳−本田」というのもあった。まことに欲張った「もどき」ではある。


「台湾鈴木」もあった。なぜ「台湾」なのかはわからない。アルファベットのロゴは「SUZ&UKI」。このほか「大陽鈴木」「鈴木光陽」「川奇鈴木」「鈴木 世界風 SUZIFU」「SUKDZU」「建設鈴木 SUKZUI」「日光鈴木」「星光鈴木」「鈴木風度」などと、まあ本当によくも考えたものだ。最後の三つには「にっこう」「ほしのひかり」「すずさのふうと」と振り仮名までつけてあった。ちなみに「すずさのふうと」は僕の書き間違いではない。「鈴木風度」は「鈴木の風格」といった意味らしい。「5星 鈴木 SUKUZU」というのもあった。「5星」はホテルなどの「☆☆☆☆☆」のことだろう。


「本鈴」というスクーターも多い。これは「BENLIN」と読み、「もどき」と呼んでは失礼だろう。しかし、右側から読むと「鈴木」と間違えそうだ。「木鈴王」もあった。とにかく「鈴」の字に人気があるようで、「台鈴」「川鈴」「格鈴」「韓鈴」もあった。この地の人たちの「SUZUKI」に寄せる気持ちが感じられるというものだ。

「尼康」というスクーターを見つけた。「尼康」はカメラの「Nikon」の中国語表記である。へぇ、あの会社は二輪車にも手を広げたのかと思ったら、アルファベットの表記は「NICOM」とか「NIKANG」となっていた。

「パクリ」がよく海外から非難される中国だが、二輪車に限ってみると、その「もどき」はなかなかにカワイイ。「もどき」であることは、中国人消費者も百も承知だろう。「もどき」はむしろ、日本ブランドのいっそうの普及に側面から力を貸してくれているみたいでもある。いっそのこと「鈴木王中王」「5星 鈴木」あたりには「もどき大賞」でも差し上げたらどうであろうか。


——と、ここまで書き終わって街を散歩していたら、下のような「もどき」の新種に出会った。「SUZUKI」の「U」が1か所「V」にしてある。結構いい出来なので、追加することにした。とにかく「もどき」の世界は新種が次々に現れ、目が離せないのである。