台北 使いやすい地下鉄

東京に来た台湾人旅行客が「台北に比べ東京の地下鉄は路線が分かりにくい。乗り換えも不便だ。運賃はかなり高めなのに」と文句を言っている。そんな話を耳にしたことがある。でも、巨大都市の東京は路線の数そのものが多いのだから、多少は分かりにくくても仕方がないだろう。路線の多くない台北あたりと一緒にしないでほしい。そう聞き流していた。だが、実際に台北の地下鉄に乗ってみると、台湾人の言い分はもっともである。

ちなみに、当地では地下鉄とは呼ばない。「捷運」(速い輸送機関の意)あるいは英語で「MRT」(Mass Rapid Transit)と称している。地下鉄に加えて、ほとんどが高架の路線や近郊の山に上るロープウエイもあるからだろう。

そのMRTだけど、いま開通しているのは5つの本線と2つの支線、それにロープウエイだが、これらが路線ごとに赤、緑、青などの色で示されている。なに、東京の地下鉄だって、路線ごとに違う色が付いているぞ。そう反論されるかも知れないが、下の写真を見てほしい。これは赤色の路線の駅だが、その赤の使い方が徹底している。緑色の路線は緑、青色の路線は青、やはり使い方が半端ではない。乗り換えの際には色に従って移動し、電車の行く先だけを間違えなければいい。

一方、東京だけど、例えば地下鉄丸ノ内線の駅名は赤地に書いてある。他の路線もそれぞれの色と駅名が密着している。ここまでは台北と同じなのだが、惜しいことには、あまり目立たない。「ご参考までに一応、色で示しています」といった感じだ。迫力に乏しい。ところが、台北では「この色が目に入らぬか」といった感じで迫ってくる。とにかく分かりやすい。車内の電光掲示板の英文も「次の駅でレッドラインに乗り換え」とか「ブルーラインに乗り換え」と表示される。

乗り換えで歩く距離がまた短い。乗り換えの駅が2層、3層になっていて、階段やエスカレーター、エレベーターで上下するだけで、おおむね乗り換えが可能である。同じホームで他の路線に乗り換えられる駅もある。こんな時は、例えばホームの一方は赤色、他方は緑色が跋扈(ばっこ)している。高架と地下を行き来する際には歩く距離が長くなったりするが、 概して乗り換えに苦労が少ない。

一方で東京の場合、例えば地下鉄丸ノ内線銀座駅と、銀座線の銀座駅だけど、同じ駅名なのに乗り換えには駅構内を延々と歩かされる。何百メートルあるだろうか。あるいは、丸ノ内線有楽町線池袋駅はこれも同じ駅名なのに、乗り換えるにはいったん改札口を出入りしなければならない。台湾人ではなく中国人だったが、有楽町線に乗りたいのに丸ノ内線の駅に入ってしまい、どうしたらいいのか困っている家族連れに遭ったことがある。

MRTは最初の路線が開通してから、まだ20年ほどである。東京に比べればずっと新しいから、合理的な造り方ができた面もあるだろう。でも、そんなMRTしか知らない台湾人には、東京の地下鉄の煩雑さが信じられない。

次には上の写真である。ホームでは電車の扉に向かって左側が「乗る客」のため、右側が「降りる客」のために、いわゆる「導線」が分けてあったりする。乗る客は降りる客がいなくなるまで待っている必要がない。乗り降りがしやすい。もっとも、東京と同じように、扉の両側を乗る客、真ん中を降りる客にしているホームも多かったけど、とにかく何かと工夫をしている。ホームドアも天井までのもの、胸の高さまでのもの、形は違うがほぼ100パーセントの駅に設けてあった。

さらには電車の中である。出入り口の近くには、乗客がつかまるためのパイプが上の写真のように(これも車両によって形は異なるが)上下方向と天井に設けてある。つり革の数も多い。8人分の座席の前にはおおむね16人分のつり革がある。しかも、東京に比べると、背の低い人にも手が届きやすい感じ。電車が満員でも、どこかにつかまるのには不自由しない。

写真の空色の座席が一般用、紺色が優先席(台湾の言葉では博愛座)である。優先席に座っている若者はまず見掛けなかった。ただし、空いている時には若者も座っていいが、必要な人が来たら、すぐ譲るようにとの表示がある。優先席に座った中年の客でも、老人や幼児連れが乗ってきたら、反射的に立ち上がる。東京の地下鉄ではそうは見掛けない光景である。

ここまで台北の地下鉄を随分と褒めてきたが、ついでにもうひとつだけ褒めてしまおう。上の写真は改札口のそばにある駅員の事務室である。どこもがこのようにガラス張りになっている。仕事ぶりが乗客から丸見えである。駅員にとってはいくらか窮屈かも知れない。でも、なんか公明正大な感じがする。

このように東京とは違いも多い台北の地下鉄だが、共通点もある。それは乗客は老いも若きももっぱらスマホをいじっていること、そして、お化粧に専念の女性もいることである。