サッカーワールドカップ 中国での「報道」から

ロシアで開かれたサッカーのワールドカップで、前評判を覆して日本チームは16強入りを果たし、大いに健闘した。一方で、中国はいまだに本大会に出場できない。このあたり、日本の活躍と中国のふがいなさ――中国ではどのように報道されているのだろうか。教え子に頼んでおいたら、ネットに流れたそのいくつかを送ってくれた。

まず届いたのは、日本在住の徐静波さんという中国人ジャーナリストが東京のスポーツバーで見た日本―セネガル戦の観戦記。中国はワールドカップに縁がないので、日本に注目しなくては、と日本の友人たちと出かけた。彼は日本が2−1で勝つと予想していたが、結果は2−2の引き分け。しかし、身体能力に優れたセネガルに2度もリードされながら追いついた日本を「私たちアジア人の誇りである」とまで褒めている。

試合が終わった頃には地下鉄もないので、続けて酒を飲みながら、話題は中国のサッカーのことに。つまり、人間が14億人近くもいながら、なぜ弱いのか。彼は日中両国のサッカーに詳しい日本の友人たちの説を紹介している。

それによると、まず両国の選手に大きな差がついた原因は「飲食の管理」にある。日本の選手は合宿の折、栄養士の決めた食事を宿舎で取り、外食は禁止されている。自宅にいる時も妻や母親が栄養士の指導に基づいて飲食に気を配っている。これに対して中国の選手は合宿時、栄養士の決めた食事をあまり取らず、あとで外食に出かける。自宅に戻った折には、往々にして暴飲暴食を始める。これが両国の選手に大きな差を生んでいると言うのだ。

ワールドカップ南アフリカ大会当時の日本チームの監督で、中国のプロチーム「杭州緑城」の監督を務めたことのある岡田武史さんの話も出てくる。彼は杭州緑城の監督を途中で辞めてしまったが、「中国のサッカーはまるでバイトをしているみたいだ」と、そのいい加減さを評したとか。たとえば、朝7時から練習があるとすると、もし日本人の選手なら1時間前にやってきて、自分で準備運動や練習を始める。ところが、杭州緑城の中国人選手は定刻にやってきて携帯電話をいじっている。監督が号令をかけないと、誰も動こうとしない。

そのほかにも、勝利はチームのみんなのものなのに、中国では得点を入れたものを英雄視し、高額の賞金を与えたりする。結果、チームの団結に悪影響を及ぼすなど、日本の友人による中国サッカー批判が次々に出てくる。この中国人ジャーナリストは「日本人の話が本当かどうかは分からないが」と断りながら、それらを紹介することで、母国のサッカーに警鐘を鳴らしている。

次は日本が2−3で敗れたベルギー戦。筆者が誰かは分からないが、ご丁寧なことに、日本2点、ベルギー3点のそれぞれの得点場面の写真が計5枚も出てくる。敗れてグラウンドに倒れこんだ日本の選手をベルギーの選手が慰めている写真も3枚、4枚・・・関心の高さがうかがえる。

そして、悲嘆にくれる日本のサポーターたちの写真と並んで、同じ人たちが会場のごみを拾っている姿が何枚も出てくる。「このような状況下にあっても、彼らはこれまでと同じように・・・」という説明がついている。また、選手たちが更衣室をきれいに掃除した後、ロシア語で「ありがとう」と書いて去って行ったことも写真付きで紹介している。

これらの写真や話は全世界に流れているものと同じだろうが、結論の中国語がすごい。「日本は負けたのか? 確かに見たところはこの試合に負けたが、日本のサッカーはこれからの黄金の十年をものにしたのである」。少し気恥ずかしくなってくる。西野朗監督の辞任や長谷部誠選手の代表引退なども中国で報道されているそうだ。

日本の話からは離れるが、人口33万人のアイスランドがワールドカップの本大会にまで進んだことは、中国にとって衝撃だったらしい。試合での登録選手は「23人」だが、アイスランドのその選考過程(?)を書いた短い記事も送られてきた。

解説を入れながら紹介していくと、33万人すべてを対象にして23人が選べるわけではない。まず、女性17万人と、18歳以下と35歳以上の男性12万人を除かなければならない。太りすぎている2.4万人も不適格だ。ここから数字が細かくなり、捕鯨に従事している788人、火山の噴火を監視している321人、今がシーズンの羊毛を刈っている2856人、銀行の社長23人、足の不自由な189人、目の不自由な265人も対象にならない。サッカーは選手だけでは成立せず、競技場でのサポーター8781人も必要である。

いよいよ対象の人数が絞られてきたが、チームには医者や監督も要る。これらも差し引くと、残るのは「23人」である。サッカーが出来るかどうかも分からないのに、全員を「登録選手」にしないと、ワールドカップの予選にも参加できない。にもかかわらず、アイスランドは本大会にまで歩を進めたのである。言うまでもなく、以上は全くの冗談で、記事の通りに33万人から数字を引き算してみたら、23人になるわけでもないが、中国人の悔しさをこんな冗談で表してみたのだろう。

最後に1枚だけの写真があった。ロシアのプーチン大統領(本人なのか、そっくりさんなのかは不明)が電話に向かって話している。いわく「よし、選手の家族をもう釈放してやろう」。意味はお分かりだろうか。僕の解釈だと、ロシアも前評判が悪かった。そこで、プーチン大統領は選手たちの家族を拘束し、「ちゃんと頑張らないと、家族を返さないぞ」と脅しをかけた。選手たちは家族を取り戻そうと懸命に戦い、8強にまで勝ち進んだ。

もちろん、これも冗談である。ロシアの強権的な政治の体質を皮肉っているのか、それとも、中国もこれくらいのことをやってはどうかと提案しているのか。いずれにしろ、中国での報道は試合の「本記」以外もけっこう楽しいのである。

追記 僕がハルビン理工大学で教え、今は母校で日本語の教師をしている孫蘇平さんという女性が、映像を送ってきました。外国語の授業のコンテストに出したものとのことです。お暇な折にでも、見てやっていただければ幸いです。
http://weike.cflo.com.cn/play.asp?vodid=177329&e=7