横断歩道橋の「先進地域」

久しぶりに訪れた桂林を歩いていて、懐かしい街並みではあるけれど、何かが変わっているなあ、という感じがした。なんだろう? そのうちに「あ、そうだ」と、思い至った。以前は見かけなかった「横断歩道橋」(以後「歩道橋」)がそこかしこに出来ているのだ。

まさに山水画で見るような山々に囲まれた桂林は、国際的な観光都市ではあるけれど、広大な中国のなかでは一地方都市に過ぎない。しかし、人口は今や100万人をかなり超えている。その桂林在住の知人に聞くと、この1年余りの間に歩道橋が次々に造られたとのこと。車の通行量がそれだけ増えたからだろう。
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その歩道橋を眺めてみると、全てではないようだが、上の写真みたいにエスカレーター付きもちょくちょく見かけた。さっきの知人によると、昨年4月にはエスカレーター付きの歩道橋がなんと6つもいっせいにオープンしたそうだ。

世界最大のスーパーマーケットチェーンの「ウォルマート」は桂林にも進出していて、店の前の歩道橋には両側に1つずつエスカレーターが付いている。余談ながら、それをよく見てみると、店から出てきたところのエスカレーターは上りで、道路を渡った先のエスカレーターは下りになっている。店でたっぷり買い物をしてから歩道橋を利用する客の便宜を考えたのだろうか。

ところで、日本では今、歩道橋はだんだんと撤去される運命にあるようだ。造られてから40年も50年も経って老朽化が目立ってきたこと、エスカレーターやエレベーターが付いていないので上り下りが大変で、歩道橋を使わずに道路を渡る「乱横断」が増えてきたこと、少子化が進み「通学路」でなくなってきたこと、などが原因だそうだ。

それなのに、もともと歩道橋のなかった桂林なんかでは逆に新しく生まれてきた。その際には一挙に6つもの歩道橋にエレベーターを付けるというやり方も、住民に歓迎されているのだろう。

一方、東京の歩道橋のなかでエレベーターが付いているのがどれだけあるか、と尋ねられれば、僕は昭和通りの新橋寄りにある「昭和通り銀座歩道橋」くらいしか思い当たらない。新宿駅西口の歩道橋にもいくつかエレベーターが付いているが、これは歩道橋というよりも、2階にある「歩行者デッキ」に行くためのものだろう。縦横に張り巡らされた本来の歩道橋にはエスカレーターは見当たらない。
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今回、中国にいた間には海に面した珠海という都市にも行ったが、ここでは上と下の写真にあるように、歩道橋に上って行く勾配が実に緩やかな階段を目にした。上の写真の階段を数えたら70段あり、普通の歩道橋の2倍ほどだった。階段を上っているという感じはほとんどしなかった。昨秋、桂林にある理工大学の前に出来た歩道橋も、僕は見ていないけれど、こんなふうだそうだ。
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普通、歩道橋というと、車優先、歩行者軽視といった感じがして、僕はあまり好きではない。でも、桂林や珠海の歩道橋のように、エスカレーターが付いていたり(エレベーター付きもどこかで見かけた)、あるいは勾配がきわめて緩やかだったりしたら、歩道橋の「先進地域」と褒めてもいいのではないだろうか。