瓶ビールは中国 生ビールは日本

5月に入ると、亜熱帯のここ南寧では連日、30度をはるかに超える日が続くようになった。勢いビールに手を出したくなる。日によっては朝、昼、晩・・・そんな時、「ああ、中国にいてよかったなあ」といつも思う。何よりも安いのである。下の写真、僕がよく買いに行くスーパーのビール売り場である。ここはどういう経路で仕入れているのか、他の店よりかなり安く、青島ビールの大瓶が9本セットで25.5元(1元=12〜13円)である。1本あたり2.8元ほど、つまり大瓶が40円もしないのである。

もっと安い店もある。ここ南寧には青島ビールの工場があり、それに隣接したレストランに行くと、「大瓶4本10元」と書いてある。1本2.5元、スーパーで買うより安い。ビール工場の隣とは言っても、どうしてこんな逆転現象が起きるのか。常識的に言えば、ビールを安く売った分は料理の代金に上乗せしているのだろうが、まあ、ビールが安いことには変わりがない。

ビールの値段はこれでも以前よりは結構値上がりしている。1990年代の前半、僕がハルビンにいたころ、ハルビンビールの大瓶は小売店で1本が1.5元だったが、今やどのビールもかなりのお値段である。さっきのスーパーとは別の店では青島ビールや漓江ビールの大瓶を1本3.3元やそこらで売っている。でも、円に換算すれば40円ちょっとである。やはり安い。ちなみに、漓江ビールというのは、桂林を流れる清流?の名前にちなんだもので、当地の地ビールである。

で、味の方だけど、僕にとっては青島ビールも漓江ビールも、そしてハルビンビールもあっさりしていて結構いける。うまい。僕自身の「舌」や「喉」に自信はないが、当地に住む日本人からこれらのビールについての悪口はまだ聞いたことがない。聞くのは「安くてうまい」「意外に飲める」という褒め言葉だけである。

たまに日本に帰ると、やはりスーパーにビールを買いに行く。だが、中国の値段に慣れてしまったせいだろう、普通のビールにはとても手が出ない。なんでこんなに高いのだろう? ついつい発泡酒や新ジャンルと称する(メーカーや愛飲者にはまことに失礼ながら)「まがい物」のビールに手が伸びてしまう。これだって、中国の普通のビールよりずっと高いのに、すぐ飽きてしまうし、何よりも惨めな気持ちになってくる。ちょっと大げさかも知れないけど、長年、苦労して生きてきて、行き着いた先がまがい物のビールなのか、と。

そして、中国に戻ると、やっと普通のビールがふんだんに飲める。人間の尊厳を取り戻したような気にもなる。発泡酒、新ジャンルなんてケチなものも当地には存在しない。ビールはどこまでもビールである。王道を行くのみである。と、ここまでは中国のビールを随分と持ち上げてきたが、当地でどうにもいただけないのが生ビールである。さっき書いたように、南寧には青島ビールの工場があるせいか、街中にはその生ビールを売り物にしたレストランが目につく。

その1軒に入ってみた。生ビールは3種類あった。1つが「原味黄ビール」、いわば普通の生ビールだ。中ジョッキが1杯5元。当地にしては安くはない。味は・・・瓶ビールの方がずっとうまい。生ビールは本来、瓶ビールや缶ビールよりもうまいはずではないのだろうか。それがここでは逆である。レストランの中を見渡すと、生より瓶を飲んでいる連中がずっと多い。そりゃそうだろう。

3種類のうちあと2つが「珈琲味黒ビール」と「葡萄味紅ビール」である。なになに? コーヒー味? ブドウ味? ビールとりわけ生ビールに求められているのは「ビール本来の味」であって、コーヒーやブドウの味ではないはずだ。でも、店に入った以上は仕方がない。「珈琲味」を注文してみた。確かにコーヒーの味、香りがする。だけど、コーヒーが欲しければ、コーヒーそのものを飲む。こんなものは飲まない。「葡萄味」は注文する気にもならなかった。ジュースを飲んだ方がましである。

うんざりしながら、店内の広告を眺めていたら、「男は黒ビール、女は紅ビール」と書いてある。それが店の勧めるかっこいい飲み方らしい。想像しただけで、気持ちが悪くなる。もう、やめてぇ〜。そう心の中で叫びながら店を出た。二度と行くことはないだろう。

そんなわけで、この地にいると、日本の生ビールが無性に恋しくなる。帰国するとまず生ビールを飲む。スーパーの瓶ビール、缶ビールにはなかなか手が出ないくせに、ビアホールの生ビールにはカネを惜しまない。大ジョッキでぐびぐび・・・生きていてよかった。そう思う瞬間である。ふたつの国を行ったり来たりして、それぞれのビールのいいところだけを満喫する。案外、最高の贅沢なのかも知れない。