「詐欺師」と道連れ、観光旅行

北京から新婚旅行でわが広西の地にやってきたカップルがいた。桂林市郊外の景勝地陽朔、棚田で有名な竜勝、そしてベトナムに近い海辺の北海市を巡り、最後は南寧市に泊まった。広西の感想を聞くと、「毎日、詐欺に遭いました。旅行していると1回は詐欺に遭うんですが、3日連続は初めてです」。

まず、陽朔では有名な映画監督、張芸謀チャン・イーモウ)の水上ショー『劉三姐』を見たいと思った。『劉三姐』は当地に多い少数民族チワン族に伝わる物語。夜、陽朔を流れる璃江の上で数百人によるショーが繰り広げられる。観客は川辺に設けられた座席からこれを眺める。張芸謀に対しては「ワンパタ―ン」なぞと悪口を言う人もいるが、このショーは陽朔の売り物のひとつである。

で、新婚旅行の2人が会場で切符を買おうとしたら、「個人には売りません、旅行社か団体客でないと・・・」と拒否された。「そんなの、おかしいじゃないの」と思ったが、どうしようもない。でも、ぜひ見たい。途方にくれていると、窓口の人が「なんとかしてみましょう」と、どこかへ電話を掛けてくれた。やがて、人のよさそうな中年の女性がやってきた。「何も会場に入らなくても外から安く見られる場所があります。2人で150元(1元≒13円)です」。正規で買えば2人で400元やそこらはする。ありがたい。

2人はワゴン車に乗せられ、山の中腹に案内された。粗末だが席が設けられており、璃江が見える。やがて、あたりが暗くなり、ショーが始まった。いや、始まったみたいだ。下方から明かりや音楽が漏れてくるが、ショーそのものは全く見えない。

次は棚田の竜勝。少数民族の経営と称する旅館に食事つきで泊まった。たまたま知り合った旅行社のガイドの紹介だった。ところが、食事がいっこうに出てこない。文句を言うと、全く理解できない方言でまくし立てられるばかり。宿泊代はすでに払っている。どうしようもなかった。

最後は海辺の北海市。ホテルで紹介されたタクシーで、やはり紹介された漁民経営のレストランに向かった。魚が水槽で泳いでいる。60元と100元の魚を注文した。2匹で合わせて160元である。漁民のレストランにしては安くはないが、素朴な漁村でのいい思い出になりそうだ。

さて「お勘定」と言うと、580元とのこと。エッ!? 確かめると、60元の魚は280元、100元の魚は300元に値上がりしていた。出口を見ると、屈強そうな若者が4〜5人、手持ち無沙汰に立っている。騙された。でも、どうしようもない。黙って外に出ると、近くにタクシーが止まっている。助かった。あれに乗ってホテルに戻ろう。運転手はさっきホテルから乗ってきたタクシーの運転手と同じ男だった。どうやら、みんなグルだったのだ。

本人たちが気づかないで騙されている場合もある。以前、広西に在勤していた年配の日本人男性2人が何年ぶりかで、家族や友人を連れ総勢10人ほどで桂林観光にやってきた。案内役は当時、同じ会社で通訳をしていた胡嬢(仮名)。今は会社を辞めてガイドをしている。そして、わが塾にいる温嬢(仮名)もこの日本人男性と知り合いだったので、「サブの案内役をしてほしい。少しだけどガイド料も出す」と言われ、南寧から桂林に飛んで行った。

で、わが温嬢によると、この胡嬢、「お世話になった方たちですから、ガイド料なんて要りませんわ」とか言いながら、けっこう辣腕だった。某ホテルでは夜、「食事つきで1部屋360元です。全部で6部屋ですから・・・」と2160元を集めていたが、翌朝、フロントに払ったカネは1760元だった。

土産物屋で800元の刺繍のネクタイを前に、わが温嬢が一行の老夫婦から「少しまけてもらえないかしら? 助けてね」と頼まれた。600元やそこらにはすぐ値切れる。温嬢はそう思った。と、近くにいた胡嬢が温嬢の腕を引っ張った。「値段の交渉は日本人に自分でやらせなさい」。老夫婦に交渉できるわけがない。800元で買わされていた。間違いなく胡嬢にはリベートがある。さっきのホテルにしろ、払った1760元からもリベートがあるはずだ。

実は、わが塾には「もと旅行社」という生徒が1人や2人、いつもいる。温嬢もそうで、胡嬢のやり口が手に取るように分かる。「ガイド料のほかに胡さんは数千元を稼いだと思いますよ」。

あれやこれや、当地の旅行業界の「常識」でもあるのだろう。でも、不愉快である。だから、僕が旅行する時や日本から客人が来た時にはわが塾の「もと旅行社」に手配を頼む。連中は裏をよく知っているから、逆におかしなことは入り込んでこない。宝塚歌劇ではないけれど、「清く正しく美しく」である。そうだ、いつかそういう旅行社を当地に立ち上げようか。いや、そんなことをしたら、業界の連中に袋叩きに遭うことだろう。