南寧に初めて日本人経営の「たこ焼きとお好み焼き」の専門店が出来た。この街でもたこ焼きの店自体は今や珍しくはない。屋台を含めればわが塾に近い学生街にも３００メートル程度の間に５軒ほどある。１個１元（約１３円）かそこらで、中国語では「章魚（小）丸子」と呼んでいる。章魚はタコ、丸子は肉や魚類の団子のことだ。たこ焼きと言ってもタコはあまり入っていないが、何個か食べていると、ごく小さな奴に当たることもある。だけど、やはり本場のものとはどこかが違う。お好み焼きは街のあちこちで売っているが、当地風のもの。たこ焼きと違って、日本とは関係がなさそうだ。そこへ日本人経営のたこ焼き・お好み焼きの専門店オープンというニュースである。
この話を耳にした時、僕は一瞬「先を越された」といった気持ちがした。と言うのは数年前、桂林にいた時、塾の「副業」としてたこ焼き屋をやってみようか、と割合まじめに考えたことがあるからだ。桂林の中心街にもたこ焼き屋が２軒生まれ、やはり１個１元ほどと当地にしては安くないのに、若者相手によく売れていた。味はいま南寧で食べているものよりは落ちた。よし、もっとうまい本場風の奴を作れば、飛ぶように売れるぞ。こちらの人たちはこんな軽食を歩きながら食べるのが大好きだ。夜遅く街に繰り出して何かを腹に入れるのもまた大好きだ。たこ焼きは成長産業ではないか。店員には塾の生徒たちを使おう。連中のいいバイトになるし、塾の赤字の穴埋めも出来る。日本語の普及にもつながる。一石二鳥、三鳥ではないか。
そこで、帰国した折、東京・合羽橋（かっぱばし）の道具街を歩いてたこ焼きの機械を見て回った。ここで相談に乗ってくれたおばさんの話だと、中国人、台湾人からの引き合いもよくある。なるほど、連中もたこ焼きを成長産業だと見ているんだ。「中国へでもどこへでもＯＫです。ちゃんと包装して送ります。経験もあります」とおばさんは言う。初期投資は屋台で始めるなら機械も含めて１５万円から２０万円で済みそうだ。心が動いた。
もっとも、それ以降は二の足を踏んでいたのだが、さっきの話を聞いて以前の「夢」がよみがえり、さっそくその店に駆けつけた。下の写真がそれで、間口は広くはないが、なかなかの構えである。こんな立派なたこ焼きとお好み焼きの店を中国では初めて見た。店内でも食べられるが、持ち帰りと出前に重点を置いているそうだ。店主は関西人で５０歳代前半の男性。もともとは繊維関係の仕事をしていたが、大阪でたこ焼き・お好み焼きの修業をしてから中国にやってきた。店主と日本人の女性、それに中国人数人がスタッフで、スクーターの男の子が一人、出前に備えて店の前で待機していた。
たこ焼きを注文すると、中国人の女性がまだおぼつかない手つきで焼いてくれた。値段は「章魚丸子」が６個１８元、「海鮮章魚丸子」が６個２０元、お好み焼きは「関西面餅」がひとつ２８元、「海鮮関西面餅」がひとつ３２元。メニューはこの４つだ。たこ焼きの値段は学生街の３倍もするが、さすがに本場大阪の味ではあった。お好み焼きも懐かしい味だった。
その学生街にこの秋からサンマを焼く匂いが漂いだした。昨年はなかった。これも屋台を含めれば学生街に５軒ほど店がある。１匹５元。いわゆる「塩焼き」であるかどうかは分からない。見ていると、プロパンガスで焼きながら、醤油色のタレをサンマの両側に刷毛でべたべたと塗っている。こちらの人たちの好きな香辛料が入っているのだろうか。そんなこともあって、僕はまだ食べていない。が、珍しさも手伝ってか、たこ焼きよりも人気があるみたいだ。休日の夜には行列が出来ていたりする。学生たちは歩きながら器用に食べている。
塩焼きうんぬんは別として、サンマをこんな風に焼いて食べるのは、実は当地ではこれまであまり一般的ではなかったようだ。僕が数年前、サンマの塩焼きを作って塾の生徒たち何人かに食べさせたら「へぇ、こんなにおいしい食べ方があったんですね」と感心されたほどだった。あんな風にタレを塗らずに、塩だけでサンマ本来の味を生かしたら、もっと売れるのでないか。サンマの塩焼きもたこ焼きと並ぶ成長産業ではないだろうか。
さっきのたこ焼き・お好み焼き店の日本人店主は「ここ１軒だけで終わらせるつもりは全くない」と意気盛んである。当地でチェーン店を展開していきたいとのこと。もらった名刺を見ると、「讃岐うどん」「日本ラーメン」にも手を広げたいようだ。そのためにも、「日本語の出来る中国人の若者を紹介してほしい。責任を持って育てますから」と頼まれた。でも、店主とは知り合ったばかりだし、僕自身がこの店の将来を保証するわけにもいかない。しかし、日本の「食」を中国に広めていくことは大賛成だ。僕だってやってみたい。
そこで、連絡先だけを記しておきます。店は「萬美集団 萬美有限公司」、電話番号は０７７１−５７８１７９７です。
