入党のハードルを下げた?中国共産党

明けまして おめでとうございます

中国で日本語を教えるようになって12年目に入りました。大学で6年、自分で作った小さな塾で5年余りです。家賃が払えるかどうかを心配しながらですが、今年も日本語塾を続けるつもりです。
駄文『なんのこっちゃ』に引き続きお付き合いくださいますなら幸いです。


大学を出てからも就職しないでわが塾に通ってくれた女性がいた。ある時、彼女が大学時代から中国共産党員だと聞いて少しびっくりした。僕はそれまで共産党員になれる大学生は学業成績の極めていい連中に限られていると思っていた。ところが、彼女は人柄こそ抜群にいいが、大学での成績がそれほど良かったとは思えない。授業をしているとよく分かる。それに、入党の動機ってなんだったのだろう? 尋ねてみた。

「何も考えずに入りました。ただ将来、仕事を探す時に役立つかも知れない、と先生に言われました。それで、まあいいかなぁと・・・。1年生の終わりに入党申請書を出し、2年生の時に党員になりました」

でも、「入党申請書」ひとつ書くのだって、そう簡単ではないだろう。そう思ってさらに尋ねると、インターネットで検索すれば入党申請書の雛形が出てくるそうで、さっそくそれを届けてくれた。「敬愛する党組織へ 私は中国共産党入党を志願します」で始まる申請書は中国語で1600字ほど。マルクス・レーニン主義から毛沢東思想、訒小平理論を褒めたたえ、唯一の入党の動機は「全心全意為人民服務」、つまり「誠心誠意、人民に奉仕すること」などと続く。これをそっくり写して出せばよいとのこと。「エッ、それじゃ、あまりにお手軽すぎない?」「ただし、コピーではいけません。そっくりそのままでいいのですが、自分の手で書かないといけません。それと、もし家族に共産党員がいれば、そのことも付け加えておいたほうがいいでしょうね。有利です」。

僕の知識だと、この申請書が認められても、まずは「予備党員」で、「正式党員」になるには確か月に1回、本人の「思想報告」を提出しなければならない。自分の思想がどのように向上してきたか、といった内容だ。入党申請書と違ってこれを書くのはかなり面倒くさいのではないか。「いいえ、それもインターネットに雛形があります。それをそのまま手書きして出せばいいんです」「ひどいもんだねぇ」「先生は中国語の『走形式』という言葉をご存じですか。共産党入党はそれなんです」。「走形式」を小学館の『中日辞典』で引くと「うわべだけを飾る いいかげんにする」とある。

中国共産党の党員数は8000万人をかなり上回るとのことだが、少し前には7000万人と言っていたはずだ。こんなに増えたのはこうした「走形式」のおかげもあるのだろう。ところで、インターネットでの雛形は誰が作っているのか。たとえ共産党でなくても、共産党が「監修」してお墨付きを与えていることは間違いないだろう。そのせいか、丸写しが歴然としていても、どこからも文句は出ないそうだ。

ハルビンの大学にいた時、共産党に入ろうとしている女の子二人に動機などを聞いてみたことがある。もう10年近く前になろうか。うち一人は「大学での成績がよくないと共産党に入れません。私は成績がいいですから、当然、共産党入党を目指します」と言っていた。

もう一人も学業成績は非常によく「私には就職の際のコネが何もありません。共産党に入ればそれの代わりになるかと・・・」と言い、入党申請に当たって提出する「文化大革命」(1966〜77年)や「天安門事件」(1989年)との関わりを問う書類も見せてくれた。例えば、「反革命暴乱」として武力で鎮圧された天安門事件の際に民主化運動に加わった親族がいたら入党できません、との学生の説明だった。今は入党に当たってのそんな問いかけもないそうだ。

今あらためて聞いてみると、その頃、このハルビンの大学では新入生全員に入党申請書が配られていた。インターネットの雛形を写す今と大同小異である。でも、入党のハードル自体は随分と下がってきている気がする。わが塾に来ている大学生にも共産党員はまさにごろごろといる。聞けば、毎年何人を入党させろ、といったノルマが大学には課せられているとのこと。ちなみに、大学生の党費は月0.2元(1元=13〜14円)とお安いそうだ。

ところで、さっきの「走形式」の女性は「卒業してからは一度も党費を払っていません。もう2年以上になりますが、まだ党員なのか、すでに除名されているのか、全く分かりません」とのこと。随分といいかげんな話だが、まあ、政党の党員集めなんて、日本の場合も褒められたものではないだろう。取り立てて中国共産党の悪口を言うつもりは僕にはない。