家主の「横暴」「横着」と「寛容」

南寧で僕が住んでいるアパートは3部屋に広間と食堂があって130平方メートルほど、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、電子レンジ、食器消毒器、空調(1つ)、ベッド、応接セット、それに食堂のテーブルと椅子付きということで、2年前に月1600元(1元≒14円)で借りた。相場から見てそう高くはない。野菜の流通を手広く営んでいる家主も人柄はよさそうだ。以前は家主一家が住んでいたが、しばらく空き家になっていた。家電製品などは家主が使っていたものだ。

だが、このアパートは何しろ築10年余り経っている。見ていると、こちらのアパート・マンションは劣化が早い。建築材料や維持管理に問題があるのだろう。わがアパートも家電製品ともどもいろんな不具合が出てきた。ガスが出てこない、水道管が漏れる、蛇口が壊れた、テレビの映りが悪くなった、電子レンジが壊れた、食器消毒器も壊れた、などなどだ。

だが、家主に言っても、「貸した時は壊れていなかった」の一点張りで、何もしようとはしない。尻をまくって出て行ってもいいのだが、新しい所を探すのが面倒だ。他の家主たちも似たり寄ったりのようなので、我慢している。ガス、水道や食器消毒器は自分で修理屋を呼んで直したし、テレビも自分で買い替えた。結構な出費である。電子レンジは特に必要でもないので、壊れたまま放ったらかしにしてある。

塾として使っているアパートもほぼ同じ広さだが、家賃は1800元。ここも窓や水道、トイレの具合が悪くなっても、家主は動こうともしない。しかも、家賃を月ごとに払うのは面倒だから、半年分を先払いしているのに、支払いの期日が近づくと催促の電話が掛かってくる。桂林にいた時もそうだった。一度だって滞納していないのに、実にうるさい。どちらも家主は役人夫婦である。

2年前、塾に使えそうなアパートを探してあちこち回っていた時に気づいたのだが、新築でもない限り、貸家はどこもかしこも部屋の中が散らかっているし、窓や壁は汚れっぱなしだった。こちらの家主には部屋をきれいにして貸そうという気持ちが全くないようなのだ。今の僕の住まいは、僕が帰国中に塾の仲間が探してくれたのだが、ゴキブリがたむろしていたり、ネズミの死骸が転がっていたり、「掃除に1週間以上掛かりました」と聞いた。

「横暴」と言うか「横着」と言うか、落語で言う「大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然」といった気持ちはもちろんないし、「経営者」と「お客」という感覚もない。需給がそれほど逼迫しているとは思えないのに、どういうわけか当地では家主が威張っている。中国では一般に、結婚しようとする男性は持ち家のあることが条件とされている。それも新婚早々、横暴、横着な家主とやり取りするのを嫌ってのことかも知れない。

一方で、こちらの家主には「寛容」なところもある。それは「また貸し」に対してである。わが塾のある女性は塾近くに3部屋と広間、食堂のアパートを借りているが、3部屋は塾の仲間の女性やインターネットで募った女性計4人にまた貸ししている。4人のうち2人は1部屋を共同で使い、あと2人は1部屋ずつ使っている。「また貸し主」は広間の一角で寝起きし、4人からそれ相応の「また貸し代」を取っている。多少ずるく立ち回れば、また貸し代で家賃を払ってしまい、自分はタダで住むこともできそうだが、聞いてみると、彼女の役得はあるかなしかで、なかなか良心的にやっているようだった。

かく言う僕も、去年の夏までは塾の生徒数人を「寮」と称して僕の住まいに同居させ、いくばくかのまた貸し代をもらっていた。家主は当然、知っていただろうが、なんの文句も言ってこなかった。こちらでは当たり前のことなのだ。自分が借りた家に誰を住ませようと、こちらの勝手でしょ、ということになる。それどころか、誰か1人にアパート1軒をまるまる貸すのが難しい場合、1人の借り主が自分でまた貸し先を探してくれれば、家主にとってもありがたいことである。こちらは1Kや1DKといった小さなアパートが比較的少ない。2部屋か3部屋に広間、食堂といった間取りが多い。勢い若い人たちはその1部屋を1人か2人で借りて住むことになるからだ。

日本では中国人に部屋を貸すのを渋る家主がいる。そんな話を聞いたことがある。その理由のひとつは、いつの間にか本人以外の者が一緒に住み始めている、ということのようだった。日本人にすれば「びっくり」だが、中国人にすれば「自分の部屋なのに、なんでいけないの?」ということになるのだろう。

ところで、いずれは今の住まいを出ることになる。その際には、入った時と同じとは言わないまでも、部屋を汚したままで出るか、「立つ鳥跡を濁さず」でいくか、今から悩んでいるところである。