趣味はマンションの階段上りだけど・・・

わが住まいのそばにある高層マンションの階段をこれまで時々上ってきた。下の写真がわが家から眺めたそのマンションで、30階建て、築5年。7階から上が住居で、低層階には最近、デパートとスーパーができた。屋上まで上ると階段数は計600ほどになる。一気にはなかなか上れない。冬でも汗びっしょり、結構な運動になる。

マンションの階段上りを始めたのは、実はその「運動」のためだ。南寧に移ってくる前、桂林に住んでいたころは、住まいや塾の近くのそこかしこにカルスト地形の山々があった。それらを生徒と一緒によく登っていた。こうした山々はだいたいが公園になっていて、500段、600段の階段を設けてある。階段を上りながら眺める景色は素晴らしいし、運動にもちょうどよかった。

ところが、南寧はおおむね平地である。ただ、カルスト地形の山々がない代わりに、桂林では見掛けない20階建て、30階建てのマンションがあちこちにある。屋上まで行けば景色が楽しめないわけではないだろう。そう考えて高層マンションの階段上りを暇な折の、いわば趣味のひとつにした。

でも、「非常」の場合を考えると、この階段上りが不安になってきた。写真のマンションの階段には窓が全くない。ふだんは真っ暗だ。足を踏み鳴らしたりすると各階に1カ所、薄暗い明かりがつく。階段の幅は2人が並んで歩けるぐらい。大変に狭い。火事などの非常の際、明かりもつかなかったとしたら、それこそ大惨事が起きるだろう。

階段は2カ所にあるが、それらはデパートにある上り下りのエスカレーターのように交差して作られている。つまり、もし下から火や煙が上がってきたら、2つの階段は同時にやられてしまう。階段が1つしかないのと変わらなくなる。

また、このマンションは1つの階に20戸が並んでいる。住居部分の7階から30階までに計480戸。夜、わが家から窓の明かりを眺めると、ほとんどの部屋が埋まっているようだ。1戸当たりの面積は割合に狭そうなので、住民の数は合わせて1000人か、あるいは1500人、2000人か。エレベーターは13人乗りが3つ。危険な階段に加えて、これも少なすぎるのではないか。

だんだん怖くなってきて、階段を上るマンションを別のものに変えた。道路を挟んで向かい側にある20階建て。下の写真がそれで、さっきのより少し古そうだ。4階から上が居住部分になっている。2階には最近、日本料理店ができた。エレベーターは14人乗りが3つで、やはり少なすぎる感じだが、階段の幅はずっと広いし、窓がついていて明るい。上っていて安心感はある。

ただ、屋上に出る戸口には錠がおりている。屋上からの飛び降り自殺でも防ぐつもりなのだろうか。火事とかの非常時に屋上に逃げられないなんて、問題ではある。でも、階段が広くて明るいことに免じて、これはまあ許すとしよう。

ところで、階段はもう1カ所にあるはずだ。そう思って探すと、各階の反対側に設けてあった。これだと1カ所の階段が使えなくなっても、もう1カ所が使える。さっきの30階建てとは違う気の配りようである。ところが、よく見ると、なんと、なんと、こちらの階段は各階の出入り口にすべて錠がおりている。「安全出口」という表示がむなしい。階段が2つあっても、1つしか使えない。管理人にとって掃除が面倒くさいからだろうか。

この20階建てマンションは1つの階が広くて36戸もある。4階から20階までには600戸ほどある計算だ。しかも、立地がいいせいか、住まいと言うより商売に使っている部屋も多く、窓々にはその看板が目立つ。住人や利用者はさっきの30階建てよりもずっと多いのではないか。非常の際の危険度も当然、上である。住人たちは誰も管理人に文句を言わないのだろうか。ただ、僕の経験から言えば、こんなことで文句を言う人なんて、当地にはまずいない。もし言っても、管理人はせせら笑うだけだろう。

結論として、趣味の高層マンション上りはあきらめ、7階建てのわがアパートの階段を何回も上ることにした。8回で計1000段やそこらにはなるし、感心なことには、全部で100戸足らずのビルなのに、階段が7つもある。屋上への出入り口の錠もおりていない。火事に遭っても、なんとか逃げられそうだ。意図したものかどうかは分からないけど、安全面での「模範」である。同じ階段を上ったり下りたりでは退屈もするから、毎回、違った階段を使うといった工夫もできる。・

それにしても、さっきの2つの高層マンション――僕ならタダで貸してあげると言われても、二の足を踏んでしまう。毎晩、マンションの各部屋の明かりを眺めながら、ご無事を祈っている。