就職の沙汰もカネ次第

大学の法学部を出た20歳代後半の女性。裁判所あたりで働きたかったが、学生時代に裁判所に実習に行ってがっかりした。判決がカネやカオで左右されたりするのを見聞きしたからだ。これに懲りて卒業後はある大学の図書館に勤めた。図書館と言っても、彼女の仕事は図書の出版部門だったが、これが妙に性に合った。毎日が楽しかった。

ただ、不満なのはなかなか正規の職員にしてもらえないことだった。勤めて5年たっても臨時職員のままで、毎年、契約を更新させられた。正規職員の定員がいっぱいなのなら、あきらめもつく。だが、自分より後から入ってきて、それこそ読み書きもろくに出来ないような連中が、正規の職員になっていく。思い余って上司に相談してみた。「正規の職員になりたければ、まず10万元(1元=12〜13円)を用意することだね」との返事だった。もちろん、賄賂である。彼女は図書館を辞めた。

大学を出た後、民間企業に勤めながら公務員試験を目指していた20歳代半ばの男性。とにかく今の中国では、公務員が若者たちの憧れの職業だと言われている。収入が多いし(もちろん賄賂の類を含めてのことだが)、仕事は楽で、首になる心配も少ないということらしい。この青年もそんな身分を望んでいたかどうかは別として、公務員試験には苦節何年かで合格した。筆記試験の成績は上位で、ある役所に応募した。応募者名、成績、採用人数は公表される。実に公明正大、オープンなやり方である。この青年が採用されるのは間違いのない話だった。

ところが、落とし穴があった。役所から健康診断を命じられ、指定された病院に行った。その結果、血液関係に難病を抱えていると診断され、希望の役所からは採用を断られた。診断結果の真偽は分からない。だが、この青年はとにかく健康で、これまで風邪ひとつ引いたことがなかった。診断結果はとても信じられなかったが、どうすることも出来ない。多分、いや間違いなく、成績順で次点だった者が病院にカネを払って彼を陥れた。それが彼の友人たちの推測であり、結論だった。

あながち荒唐無稽な推測とは言えないみたいだ。中国人に話したら、「そっくりなことが新聞に載っていましたよ」と、次のような話をしてくれた。陝西省で去年、やはり難病を理由に役所から採用を断られた青年がいた。診断したのはその役所が指定した病院だった。そこで、青年は役所とは無関係の大病院で、それを180パーセント覆す診断結果を得て裁判に持ち込んだ。結果は青年の勝訴だった。しかし、何しろ青年は「ムラの掟」に挑んだのである。今後このムラで生きていこうとすれば、果たして将来があるかどうか、はなはだ心もとない。さっきの中国人はそう付け加えた。

新聞の報道と言えば、最近こんな記事を読んだ。中国南方の大都市である広州の銀行が大学卒の行員を募集し、北京の大学4年生の女の子が応募した。はるばる広州まで飛んで面接を受け、自宅で待っていると「あなたは合格しました。応募者中9番の成績です」との知らせが来た。喜んでいると、続きがあった。「親が当行に50万元以上預金している人を優先して採用します」。

まるで詐欺じゃないか。もちろん、こんな銀行とはきっぱり縁を切った。ところが、その後ネットで就職情報を探していると、同じ銀行が「本性」を隠して相変わらず学生を募集している。頭に来て報道機関に通報した。カネ次第には慣れている?中国人も、さすがにこの話にはびっくりしたようだ。中国の国営通信社である新華社配信のニュースが「大学生を募集? それとも、大口預金者集め?」といった見出しとともに、南寧の夕刊紙にも大きく載っていた。

採用に当たって、開けっぴろげにカネを求める職種もある。わが塾にいたこともある大学4年生の男の子が消防士に応募した。ところで、この消防士という職業――筆記試験その他に合格しても、実際に採用してもらうには5万元以上を払わなければならない。他の省ではどうなのかは知らないが、ここ広西の場合、それはオープンに示されている。今後5年間、消防士の資格を与えてもらうための費用なのだという。

信じられないような話だが、一方で、危険の多い消防士の給料は(さっきの男の子によると)月額5000元と、この地にしては並外れて高い。彼は仮に5万元や10万元払っても、給料で十分に回収できると考えたみたいだ。もっとも、試験に落ちたのか、自分からやめたのかは聞いていないが、この子は消防士の道には進まなかったとのことだった。

地獄の沙汰も、いや就職の沙汰もカネ次第。でも、カネで買った仕事って、やっていて楽しいのだろうか? まじめに働く気になるのだろうか? 余計なおせっかいだろうけど、気になるところである。