郵便局のタダシイ利用法

わが塾からそう遠くない所に郵便局がある。1年あまり前、桂林から南寧に引っ越してきた頃は、もっぱらこの郵便局を使っていた。ところが、2人いる女性局員がどうも親切ではない。いやいや仕事をやっているみたい。それどころか、客に敵意を燃やしている感じすらする。

ある日、日本への航空便を持って行った。封筒に「日本 東京都・・・」と書き、「日本」の下に赤いボールペンで線を引いておいた。この郵便は日本向けですよという注意喚起、つまり親切のつもりだった。これまでもそうやっていた。日本にいる時も航空便を出す際には国名の下に赤線を引いている。ところが、これに文句がついた。封筒の表面に赤い線を引いてはならないと言うのだ。赤い字は郵便を戻す時に郵便局が使うものなので、郵便局員以外は使えないとのことだった。

へぇ〜、初耳だけど、案外そんな規則があるのかも知れない。でも、そんなこと郵便局内に書いて掲げてあるわけではない。それに、今までこれを拒否されたことは一度だってない。赤線1本で郵便局にとってどんな不都合があるのか。たまたま塾の仲間が一緒だったので、中国語でまくし立ててこの航空便を引き受けさせた。が、窓口の女性局員はなんとも不愉快な表情だった。

また、ある日、封筒の住所の書き方について文句を付けられた。横書きの封筒の場合、左上に相手の住所、氏名、右下に自分の住所、氏名を書くのが普通だろう。僕もそうしたつもりだったが、右下の自分の住所、氏名がいくぶんか左に寄り「中央下」といった感じになっていた。女性局員はこれでは駄目だ、書き直さないと受け取れないと言う。決意は固いようだ。「赤線」の復讐のような感じもする。書き直すのは面倒だし、何よりも癪である。結局その封筒を持って郵便局を出た。ちなみに、こちらでは自分で切手を貼って郵便ポストに投函なんてことが、はなはだやり辛い。第一、街中で郵便ポストをほとんど見掛けない。郵便を出すには郵便局に行くしかない。

郵便局員ともめるのは何も僕だけではなかった。ある日はEMS(国際スピード郵便)を出しに来た40歳代の男性と女性局員が口論していた。原因は何か分からなかったが、男性は女性局員に払う料金を放り投げる。女性局員もお客に渡す「貨物運送状」の写しを投げつける。揚げ句は男性が、受け取ったばかりの運送状の写しをびりびりと破って床に捨てた。それを見た女性局員はEMSを自分の背中越しに部屋の隅に放り投げてしまった。そこはごみ置き場のような場所で、EMSはごみに隠れて見えなくなった。このEMSの運命はどうなったことであろうか。

で、先ほどの受け取りを拒否された封筒のことだけど、翌日、バスに乗って別の郵便局に持って行った。塾の近くの郵便局よりもいくぶんか大きい。ドアを開けて入ろうとすると、「ニイハオ」(こんにちは)と、明るい声が飛んで来た。見ると、女性局員が2人にこにこしている。もちろん、件の手紙はすんなりと受け取ってくれた。同じこの地の郵便局なのにサービスはまさに「月とスッポン」であった。

以後はこの郵便局を使うことにしたが、時間がなくて行けないこともある。仕方なくある日、しばらく避けていた例の郵便局を覗いてみた。すると、窓口の2人の女性局員のうち1人はいつもの意地悪局員だが、もう1人はこれまでに見たことのない局員だった。30歳代、顔つきは怖いし、にこりともしない。だけど、試しにこの局員のほうを選んで日本向けのEMSを渡してみた。意外に仕事がてきぱきしていた。

それから、またこの郵便局を利用するようになった。ただし、さっきの局員がいるかどうかを確かめてからである。そのうちに、合理化か何かのせいだろうか、意地悪局員は2人とも見掛けなくなった。もう1人、サービスまあまあの男性局員がいるが、彼女が1人で窓口を守っていることが多い。でも、なんとなく心もとないところもある。わが生徒たちの就職や留学のための書類をEMSで出すと、受け付けた後、ぽんと横に放り投げたままにしている。大事な書類なのに大丈夫だろうか。ちょっと不安にもなってくる。

そこで、ふと思いついて、日本から持って来たチョコレートを、ほかに客がいない時に、さりげなくプレゼントしてみた。賄賂と言うより鼻薬の類だが、以後、こちらの出す郵便物を大事に扱ってくれているような気がする。先客がいるので僕が後ろに立っていると、手招きして先にやってくれたりもする。

郵便局の「タダシイ」利用法なぞと大げさな見出しを立てたけど、話はきわめて簡単――郵便局員がみんな意地悪、あるいは逆に、みんなが親切であることはない。つまり、サービスは「属地」ではなく「属人」であり、また「いい」「悪い」の差が極端である。だから、親切な人を見つけて利用する。鼻薬、つまりメンテナンスも必要だ。それだけのお話なのである。