日中の郵便局に翻弄された50日間

中国人に頼まれて、都内の郵便局から食料品や薬を中国あてにEMS(国際スピード郵便)で送った。段ボール箱に詰めた食料品など中身の値段は合わせて21,300円。郵送代は8,900円と、少し高かったが、わずか1週間ほどで届くはずである。このEMSには、荷物が今どこにあるかを、ネットで追跡できるサービスがある。いつ配達が完了したかも、あらかじめ頼んでおけばメールで知らせてくれる。

このサービスを使って追跡すると、都内の郵便局に荷物を預けた翌日の夜には早くも、受取人の住所に近い中国・広州の郵便局に着いている。ところが、その後5日経っても、6日経っても、荷物はじっとしていて、動かない。日本に比べて中国の郵便局は一般にのんびりしているが、ちょっとおかしい。そこで、受取人に連絡して、広州の郵便局に問い合わせてもらった。

すると、個人用の郵送品は中身の価格が合わせて1,000元(16,000~17,000円)を超えていると、受取人による税関手続きが必要になるとのこと。「21,300円」は確かにそれに当たるが、そんな面倒なことは日本の郵便局では何も聞かされなかった。ところが、中国の郵便局は「日本にはちゃんと知らせているのに、そんなことにお構いなく、荷物を送ってくる」と、逆に文句を言っているそうだ。

発送したのは小さな郵便局だったので、別の大きな郵便局に行って、事情を調べてみた。だが、EMSの窓口の職員も「1,000元以上・・・」は初耳だったらしく「少々お待ちください」と、奥に引っ込んだ。そして、戻ってきて言うには、「日本郵便株式会社(郵便局)のホームページを調べましたら、『中国あて国際郵便物の差し出しについて』という欄がありまして、確かにそのようになっています」。中国からは連絡してきているのだ。

そうならば、そうと、僕がEMSを出そうとした時点で教えてくれなくちゃ困るではないか。そう文句を言うと、「申し訳ありません」と頭を下げたが、謝られて済む問題でもない。高い郵送代を取っているくせに、不勉強である。

でも、今さら文句を言っても、始まらない。中国の受取人には郵送品の中身を詳しく知らせ、税関手続きをするように頼んだ。食料品はコーヒー、梅干し、即席ラーメン、マヨネーズ、かつお節など、薬は頭痛薬、軟膏などだ。中身自体には問題になるようなものは何も含まれていない。

これで一件落着と思ったが、受取人からは、広州の郵便局からさらに文句を言われたとの連絡が来た。それは食料品なら食料品だけ、薬なら薬だけ、あるいは衣類なら衣類だけを一つの箱に詰めるべきで、食料品と薬を一緒に詰めては駄目だというのだ。なんとも納得のいかない理由だが、結局、荷物は僕に送り返されることになってしまった。悔しいが、どうすることもできない。

じゃあ、いつ、広州の郵便局を出るのかと、ネットの追跡サービスで調べてみた。すると、これも5日経っても、6日経っても、動きがない。また、受取人に調べてもらったら、郵便局は「2週間ほどしてから、日本に送り返す」と言っているとのこと。理由は分からない。嫌がらせなのだろうか。

イライラしながら、ネットで追跡だけはしていると、荷物はなんと計23日間、広州の郵便局に滞在した後、「発送」という表示が出た。さあ、やっとあと数日で戻ってくるぞと思ったが、今度もそうは問屋が卸さなかった。

やはり、5日、6日と経っても、発送した後、どこに荷物があるのかの表示がネットに出てこない。そこで、東京・大手町の日本郵便の本社内にある郵便局に行ってみた。ここなら、ほかの郵便局よりも少しはしっかりしているはずと思ったからだ。

すると、EMSの窓口の職員は「いやあ、中国は広いですから、配達に時間がかかっているのでしょう」と、間の抜けたことを言う。そこで、これまでの事情を話して、さらに調べさせたら、「いま船便で日本に向かっているようです」とのこと。EMS、つまり航空便で出したものが、のんびりと船便で戻ってくるなんて・・・結局、24日間をかけて日本の郵便局に着いた。
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その数日後、段ボール箱は僕の家に配達された(上の写真)。都内の郵便局に預けてから、なんと50日が過ぎている。箱には返送の理由を記す、「東京国際郵便局」発行の小さな紙片が貼られている。そして、いくつかの理由のなかで「名あて国で保管していましたが、受取人様からの請求がなく、保管期間が過ぎました」のところにチェックがしてある。完全な嘘である。受取人は何とかして届けてもらいたくて、いろいろと努力したが、広州の郵便局は相手にしてくれなかったと泣いていたのだ。

返送理由を記した、東京国際郵便局からの紙片にはもう一つ、「その他」というのにもチェックがあった。しかし、「その他」の中身については、何も書いていない。これでは全く意味不明である。完全な手抜きの仕事である。

少ししてからパソコンをのぞくと、日本郵便からの「○月○日○時○分、配達を完了いたしました」という丁重なメールが届いていた。あのねぇ、それはないだろ・・・とは思ったが、これ以上、文句を言う気力は湧いてこなかった。