レストランで「腑に落ちない」こと

中国の空港(と言っても、たくさん知っているわけではなく、時々利用するのは上海と広州の空港ぐらいだけど)、そこでいささか頭にくるのは、レストランなどの料金の高さである。街中での値段とかけ離れている。家賃が高いという理由もあるのだろうが、所詮はほかに行くところがない客の足元を見ているとしか思えない。あこぎであり、なんとも腑に落ちない。

昨年末、上海の虹橋空港で飛行機に乗る前、見送ってくれた塾の生徒と一緒にレストランに入った。牛肉ラーメンが40元(1元≒19円)。街中ならまあ15元から20元、安いところなら10元以下で出てくる。牛肉(らしきもの)もちょこっとしか入っていないのに、街中の2倍、3倍、4倍もする。生徒に「僕が奢るよ。好きなものを注文して・・・」と言ったのだが、値段に圧倒されて、「先生、たか〜い」と、目を白黒させている。

次は今年2月、広州の白雲空港。やはり飛行機に乗る前、見送りの生徒たちと一緒に「日本料理」と称する店に入った。牛肉ラーメンが40元、50元。上海と似たようなものだから、まあ仕方がない。高値にも慣らされてきたみたい。「ビールもいかが」と店員に勧められたが、こちらは手を出す気にならない。330mlの缶ビールが39元。スーパーでの正確な値段は忘れたが、まあ10倍かそこらか。売店で買うペットボトル入りの水もそれくらいは吹っ掛けてくる。値札を見るのが恐ろしくなる。

日本の空港のレストランも街中よりは高いようだが、上海や広州に比べれば可愛いものだろう。それどころか、中国人の旅行客から「日本の空港のレストランの値段は街中とそうは変わりません。日本はさすがに良心的です」と褒められたことがある。ちなみに、成田空港に詰めている新聞記者に聞いてみたら「まあ、街中より10〜20パーセントくらい高いでしょうか。家賃が随分と高いようです」とのことだった。

僕も中国の空港でこんな値段に唯々諾々と従っているわけではない。今回は見送りの生徒がそばにいて時間がなかったのだが、そうでない時は街中のスーパーで缶ビールからつまみまで買い込んでから空港に行く。そして搭乗前、カネの掛からないロビーで、馬鹿高いレストランを横目で見ながら、ひとりで酒盛りしている。

腑に落ちないと言えば、空港に限らずレストランで出てくる写真のような「食器」もそうである。場所によって組み合わせはいくらか違うが、皿、椀、れんげ、茶碗かコップ、箸あたりがセットになっていて、「消毒済み」と称している。お目見えしたのは10年近く前だろうか。観光地の桂林で初めて見た。観光地での食中毒なぞはご法度ということで、「衛生」を旨として当局の指導で始まったそうだ。その後、どのレストランでもというわけではないが、あちこちで見掛けるようになった。無料ではない、1元である。飲食代金に上乗せされる。


レストランは客が使った食器を自分では洗わない。なんとかセンターとかいったところが集めに来て、まとめて洗い、配達してくる。そして、客から1元を徴収する。食器が果たしてどれだけ清潔になっているかは知らないが、裏から見れば、客は料理の代金を払ったうえに食器の洗い賃まで負担させられている。わずか1元とはいえ、ちりも積もればなんとやら・・・レストラン、皿などを洗う業者、そして役人――それぞれいいことがあるのだろう。気の毒なのは客である。

これだけでも疑問に思っていたら、上海のギョーザ屋では写真のような食器に出くわした。やはり1元。ぺらぺらの食器である。最初は発泡スチロールかと思ったが、包装のビニール袋に書かれた説明を読むと、イモから作ったものらしい。「健康」「衛生」「低硫黄」「環境保全」とうたっている。サツマイモかジャガイモかは分からないが、イモ製の食器がどうして「健康」なのだろうか。あるいは、料理と一緒に食器も食べろと言うのだろうか。ギョーザ屋で一緒にいた生徒に聞いたら「最近、仕事で時々行く武漢湖北省の大都会)でもよく出てきます」とのことだった。

ますます腑に落ちない。聞いてみると、日本人の僕だけではなく中国人にもこうしたことを苦々しく思っている人がいるらしい。そこで、レストランに入る時には自前の食器、それも持ち運びしやすいプラスチック製なんかを持参して抵抗しているとか。アルコール類は持ち込みお断りの表示をした店も多いが、食器は持ち込みを断るわけにはいかないだろう。

よし僕も次に中国のレストランに入る時には食器一式を持ち込もう。それも日本人として恥ずかしくない、日本製の立派な奴を・・・と楽しみにしている。それでこそ、腑に落ちるというものだ。