辺境にまで迫り来る中国の「大気汚染」

この1カ月ほどだろうか、わが南寧の街中を1時間か2時間、散歩していると、ときどき目が痛くなってくる。変だなあと思いながら家に戻るとすぐ治る。わが塾の生徒に聞いてみると、みんなも同じらしい。「外にいる時間が長いと喉が痛くなります」と訴える生徒もいる。

どうやら街中の空気が急激に悪くなっているみたいだ。しばらく買わなかった地元紙を買ってみた。南寧市内8カ所の前日の空気がどうだったか、1級から6級までに分けて載せている。1級が「優」、2級が「良」だそうだが、最近は連日「軽度汚染」の3級、「中度汚染」の4級が目立つ。「重度汚染」の5級も時々登場する。 PM2.5のせいだとか、臭気が漂っているとかの注釈がついている。幸いながら6級はまだないようだが、半年ほど前は連日1級か2級だった。写真は晴天?のある日、昼ごろに撮ったものだ。広い川のほとりだから他よりは少しは増しなはずだが、川向こうのマンションがくすんでいる。

南寧を地元の人たちは「緑城」と呼んでいる。中国語の「城」は日本語で「都市」「町」のことだ。つまり、緑城とは「緑に包まれた都市・町」という意味だ。嘘ではない、日本の都市では見かけないほどに街中には緑が多い。道路の両脇の並木が道の真ん中にまで覆いかぶさっていたりする。日本でこんな所があったら、観光地になるかも知れない。だが、この緑が最近は元気がない。木々の葉に手を当ててみると、埃がべったりとくっつく。

10月下旬、さっきの地元紙に「南寧 PM2.5 捲土重来」との記事が載っていた。ちなみに、中国語の「捲土重来」は悪いことについて言うそうだが、この記事によると、今年7月、南寧の大気は連日1級か2級、つまり優か良だった。ところが、8月、9月と次第に悪化し、10月上旬、中旬の半分以上が3級、4級、5級の軽度、中度、重度汚染の日々だった。

余談ながら、わが塾に、気象局に友人が勤めているという生徒がいる。その生徒によると、気象局は毎日、できるだけ大気のよさそうな所で測定し、新聞などに発表しているとのこと。「嘘」は発表しないで、一応まじめに測定しているんだなあ、と笑ってしまったことではあった。

中国の大気汚染のすごさは世界中で報じられている。でも、それは北京、天津、東北3省(旧満州)など北方の町や、南方の大都会である広州、上海でのことだと思っていた。それが奇麗な空気だけが取り柄?のわが南寧にも及んできている。南寧はベトナムに接する広西チワン族自治区の区都である。都市部の人口が300万かそこらの大都市とは言え、大した産業はないうえ、北方の町々とは遠く離れている。言ってみれば、中国の辺境である。広州や上海もはるか北東のかなたにあり、汚染した大気が流れ込んでくるはずもない。

地元紙には、南寧の大気が10月になって急にひどくなった原因が挙げられていた。まとめると、まず1番目は、気候が秋冬型になったので、雨が少なくなり、風もあまり吹かない。おかげで、大気があまり拡散しなくなり、汚染物も滞留しやすくなった。でも、去年だって一昨年だって、気候が秋冬型のこの頃もこんなに空気は悪くなかった。なんで今年だけ「犯人」にされるのだろうか。

2番目は、南方では気候のいいこの頃に工事をすることが多い。従って、埃がたくさん出る。3番目は、国慶節(建国記念日)の長期休暇があった10月は、車で出かける人が多かった、おかげで道路が渋滞して空気を汚した。でも、これらも去年だって一昨年だって、似たような状況だった。しかし、これほど空気は悪くなかった。

4番目は、涼しくなって、串焼きを売る屋台が増えた。5番目は、農民が木炭を作る季節になった。両方とも煙が出る。もう、噴き出してしまう。大気汚染の本当の理由――経済成長ばかりを追い求めてきた咎めである、具体的には・・・なんてことはいっさい書いていない。いろいろと差し障りがあって言えないのだろう。すべて「自然現象」やその類いのせいにしてしまっている。

大気が急激に悪化するに伴って、新聞に載るマンションの広告にも変化が生じてきた。某日はある不動産業者が「大型公益活動」と称して「空気浄化器を緑城(南寧)に100台送る」との広告を出していた。大気汚染の状況をスマホで撮影して送ってくれれば、抽選で・・・ということらしい。ついでに「自由呼吸」ができるマンションのモデルルームの「体験券」ももらえるとのことだ。

同じ業者は数日後に「空気浄化器を備えるのはいいことですが、わがマンションは空気の浄化は不要です」という広告を出していた。多分、都心部から離れたマンションなのだろうが、「放胆呼吸」ができる、つまり「思い切って呼吸ができます」とも付け加えていた。大気汚染をどうやって改善・解決するかよりも、まず金儲けのタネにしてしまう。すごい人たちではある。