普通郵便が届かない確率は?

梧州市での住まい近くの郵便局に、重慶市に住む教え子あての書留郵便を出しに行った。彼女がメールで送ってきた作文を添削したものが入っている。横長の封筒は地元の日系企業からもらったものだ。隅のほうに社名、住所、電話番号が書いてある。業務用に使っている封筒だ。

ところが、窓口の男性職員が「この封筒は受け取れない」と言い、手元から別の横長の封筒を出してきた。見ると、隅のほうに「広西区郵政管理局監制」と印刷してある。「広西区」とは梧州市の属する「広西チワン族自治区」のことだ。なるほど、自分たちの収益につながる封筒でないと使わせないわけか。あらためてこの封筒にあて先を書き直して出した。わずかだが、封筒代も取られてしまった。

実は10日ほど前にも重慶の同じ教え子あてにこの郵便局から書留郵便を出している。封筒はさっきのと同じ地元の日系企業のものを使ったが、窓口の女性職員は何も言わずに受け取った。でも、「この前はよかったのに、なんで今日は駄目なんだ」なぞと文句を言っても始まらないだろう。なにしろ、こちらの対応の仕方は、ある人はOKでも別の人はNO、きわめて属人的なのである。

僕は郵便を出す時は、中国の国内便でも、中国→日本、日本→中国の外国便でも、普通郵便は使わない。よく届かなかったり、時間が掛かり過ぎたりするからだ。以前、日本の友人から12月に届いた手紙に「だいぶ暑くなってきましたが」とあったので、日本の郵便局の消印を見てみると、投函は6月だった。だから、重要なものは値段の高いEMS(国際スピード郵便)を使うが、それ以外はもっぱら書留にしている。これだと届かなかったことはまだないし、掛かる日数もそれほどではない。

この正月、重慶に行った時、「磁器口古鎮」という観光地に行った。嘉陵江なる大河に面し、かつては水運による物資の集散地として栄えた所だ。明や清の時代の街並みが残り、物見遊山の人たちでごった返していた。

その一角に絵はがき屋があり、絵はがき代、切手代を払えば、投函まで引き受けるサービスをしていた。切手代は書留郵便が10元(1元≒17円)、普通郵便が4元。国内便の料金で、郵便局に持ち込むよりも少し高い。それはそれで仕方がないのだが、注意書きがあった。いわく「普通郵便の場合は途中でなくなる確率が2パーセント前後あります」。

行方不明になる普通郵便が2パーセント前後だなんて、どこから出てきた数字だろうか? 中国の郵政当局が調べて発表した? まさか!? この絵はがき屋の独自の調査結果? まあ、きちんとした根拠のある数字ではないだろうけど、普通郵便がよく届かないことは、僕自身も何度も経験した紛れもない事実である。もちろん、日本でも郵便物が届かないことがあるが、それは仕事がいやになったりした配達の職員が意図的に郵便物を捨てたとか、「異常事態」が起きた場合である。それがこの地では「常態」が2パーセント前後である。

この絵はがき屋と出会う前の昨年末、いま日本などに普通の航空便を出したらどうなるだろうか、ちゃんと届くだろうか、と「実験」を思いついた。そこで、梧州市の郵便局から12月22日、日本4カ所、イギリス1カ所の計5カ所の家人、知人あてに景勝地・桂林の絵はがきを年賀状代わりにして投函してみた。無事届いたら連絡してほしいとメールも送っておいた。

だが、年が明けても、松の内を過ぎても、無事到着の知らせがない。やっぱり駄目か。ほぼ諦めていたら1月21日、日本の4カ所からいっせいに「朗報」が届いた。でも、投函から配達までに航空便が1カ月も掛かっている。僕はかなりの自信を持って言うが、この責任は中国の郵政当局にある。多分、中国から日本の国際郵便局にこれらが届いたのは1月19日か20日だったのではないか。そして、翌々日か翌日にいっせいに配達されたはずだ。

と言うのは、さっき少し触れたEMSの動きを見ていればよく分かる。EMSはインターネットでその動きが追跡できる。そして、日本から中国に送った場合は中国の国際郵便局にはすぐに着くのだが、その後がぐずぐずしている。中国から日本に送った場合はその逆で、中国を出るまでにぐずぐずしている。日本の国際郵便局に着けば、たちどころに配達される。

イギリスからも「朗報」が来た。次男一家からで、1月26日に届いたとのこと。次男は「イギリスも郵便事情がよくない」と言っていたが、僕がさっきの「中国の郵政当局の責任」を伝えると、「ほぼ1カ月間、普通郵便物を安全に保管できる中国の郵政当局の能力は大したものだ」とメールしてきた。僕はこれまでも『なんのこっちゃ』でこの国の郵便事情の悪さを2回、3回と書いてきた。でも、ネタに行き詰まった時に、すかさずそれを提供してくれる中国の郵政当局の能力も、また大したものである。