聞き書き「デイサービス」よもやま話 その1

僕は昨年、「介護職員初任者研修」を受けたが、同じくこの研修を終えた中年女性が最近、東京都内の「デイサービス」の介護施設でアルバイトとして働き始めた。なかなかに大変らしい。毎日、それこそ疲れ切ってしまうそうだ。11月11日は「いい日、いい日」の語呂合わせで10年来の「介護の日」だとか。それにちなんだわけでもないけれど、以下は彼女からの聞き書きである。

[介護職員の一日]

勤務時間は朝8時から夕方5時までの早番と、朝9時から夕方6時までの遅番がありますが、私が遅番だったある日のことをお話ししましょう。9時からの勤務と言っても、8時45分には施設に着き、狭いロッカー室で作業用の服に着替えます。作業着代は自腹です。すぐ、風呂場に行き、お湯の具合などをチェックしてから、走って広間に出ます。利用者を出迎えるためです。

この施設には3台のワゴン車があって、朝から夕方まで利用者の送り迎えをしています。今日の第1陣でやってきた利用者は車いすが1人、四輪のいわゆる「シルバーカー」を押している人と杖の人が3人ずつの計7人でした。70歳代から90歳代まで、女性が5人、男性が2人。車いすを押したり、手をつないだりして、みんなを洗面所に案内し、うがいと手洗いをしてもらいます。

あと、席に座ってもらい、機嫌はどうだろうかと観察しながら、「朝のお飲み物はどうなさいますか」と聞いて回ります。コーヒーやお茶を飲んで少し落ち着いてから、看護師がみんなの体温と血圧を測ります。

第2陣、第3陣なども含めると、今日わが施設に来た利用者は21人になりました。女性が多いです。また、21人のうち16人が入浴予定で、さらに16人のうち7人が「一般入浴」、9人が「器械入浴」です。

体を支えたりして少しお手伝いすれば、自分の力で入浴できるのが一般入浴です。器械入浴は説明が難しいのですけど、車いすのようなものに座らせ、そのまま浴槽に入れます。自分ひとりではほとんど何もできない人が対象で、介護職員が2人掛かり、3人掛かりになる利用者もいます。浴室での私の服装は短パンに半袖シャツです。また着替えなければなりませんが、これらも自腹です。

私は今日は器械入浴の担当ですが、入浴前に服を脱がせるのがまず大変です。なんとか裸にして頭のてっぺんから足の先、それこそお尻の穴まで洗うのですが、体を洗っている最中に「痛い、痛い」などと文句を言う人もいます。「ありがとう」と言われることは、めったにありません。

入浴そのものを嫌がる人もいます。今日、80歳代の男性に「入浴しませんか」と言うと、「嫌だ」と2回、断られました。そこで、「奥様から、今日はぜひ入浴させてください、というお手紙が届いています。入浴しないと怒られますよ」と話すと、「分かった。入る」ということになりました。奥様うんぬんは私の作り話です。

一般入浴は1人20分から30分で済みますし、2人一緒に入ってもらうこともできますが、器械入浴は1人ずつで、しかも30分から40分、50分と掛かります。1人が終われば浴室・浴槽を掃除して消毒し、新しいお湯を入れます。   

午後3時のおやつの時間までに、今日は9人の入浴を済まさなければなりません。一般入浴は午前中に全員が終わりましたが、器械入浴は正午過ぎまでに済んだのは6人だけで、3人が午後に回ってしまいました。掃除、消毒などその準備も昼休みにしなければなりません。

私の昼食は自宅から持参した弁当です。今日は広間の片隅にある1坪ほどの倉庫のようなところで、20分で済ませました。昼休みは一応、1時間なのですが、職場で昼食を取っていると、きちんとは休めません。利用者から「トイレ!」と言われると、昼休み中でも付き合わざるを得ません。

3時のおやつが終われば、利用者は次々に送りの車で帰って行きます。見送ったあとはおやつの後片付け、台所での皿洗い、トイレの掃除などが続きます。6時過ぎ、施設を出た時は、足を上げるのもつらいといった感じです。

でも、私は笑顔を絶やさないように心掛けています。そのせいか、うれしいこともありました。96歳の女性から「あなたの笑顔を見ていると、私も元気になれるよ」と言われたのです。

すると、横にいた82歳の女性が「カネをもらってるんだから、笑顔も当たり前だよ」と言いました。96歳の女性は「そんなこと、言うもんじゃない」と、たしなめていましたが、そう、私はおカネをもらっています。10月は18日間働き、給料は手取り12万円ちょっとでした。