華僑の原点!?

久しぶりの桂林両江国際空港。香港からの飛行機で着き、空港の建物を出ると、おばさんが「ライター、1元(16〜17円)」と言いながら寄ってきた。手にはいくつかの使い捨てライターを持っている。えっ、なんでこんなところでライターを売ってるの? なんか場違いな感じがした。「新品」とのことだが、当然、手を振って断った。

でも、その「場違いさ」が気にもなり、しばらく歩いてから振り返って、ライター売りのおばさんの動きを目で追ってみた。おばさんはほかの男たちにも声を掛けている。すると、ライターを買う男が1人、2人、3人・・・そして、すぐにたばこに火をつけている。

何かと鈍い僕にも事情が分かってきた。飛行機に乗るときには、預ける荷物にも手荷物にも、もちろんポケットの中にも、「危険物」であるライターを入れることは出来ない。機内は禁煙で、たばこを吸う人にとってはつらい時間である。

飛行機から降り、さあ一服と思っても、手元にたばこはあるけれど、ライターがない。禁断症状でイライラし始めたところへ「ライター、1元」のおばさんが寄ってきたら、「地獄で仏」みたいな感じがするかもしれない。僕も20年ほど前まではたばこを吸っていた。その気持ちは完全に禁煙した今でもよく分かる。

そこに目を付けたおばさんは偉い。俄然、取材意欲がわいてきた。さっきのおばさんをさらに目で追った。すると、同業のおばさんはほかにも2人はいるようだ。僕の想像が膨らんできた。飛行機に乗る際には安全検査を受けるが、その入り口にはライターなど危険物を自主的に捨てるための箱が置いてある。空港当局はあそこに捨てられたライターをあとでどう処分するのだろうか? 捨ててしまうのだろうか。いや、まだしばらく使えそうなものは、ライター売りのおばさんたちに安く払い下げているのではないか。双方にとって利益がある。

僕の足は自然に安全検査の入り口に向かった。途中、たばこやライターを売っている店があった。使い捨てライターは1個5元だった。

安全検査の入り口に着いた。ここには、ライターなどを捨てる箱のほかに、やはり機内には持ち込めない、水などの入ったペットボトルを捨てる箱も置いてある。さっきとは違うおばさんが中をあさっていた。なるほど、ペットボトルもカネになるし、同じあさるのなら、ここは一等地だろう。空港内のほかのごみ箱も搭乗客の捨てるペットボトルが多いはずだ。おばさんはやがてそちらのほうに移動していった。

桂林の都心から少し離れたところに居を定めて翌朝、近くを散歩していると、下の写真のように、歩道の端に板を置き、そこに野菜や果物などを並べた八百屋を見かけた。

道端といっても、八百屋のおじさんは広い歩道の4分の3ほどをふさいで商品を並べている。歩道を歩いてきた人を商品の前で立ち止まらせるには効果的だろうが、随分と自分勝手である。歩行者は八百屋をよけて道の端っこを通らなければならない。だが、ここでは誰も文句をつけていないようだ。おじさんの人柄のせいもあるのだろうか、立ち止まって野菜や果物を物色している。

ライター売り、ペットボトルあさりのおばさんにしろ、このおじさんにしろ、今のところはしがない商人に過ぎない。だけど、目のつけどころが違う。独創的でもある。世界各地で商人として活躍する華僑や華人の原点を見たような気がした。