続「郵便受けは悲しからずや」

去年秋、日本の家族や友人から桂林のわが家に「航空便を送った」というメールが3通あった。うち1通は半月ほどかかって届いたが、あと2通は年を越した今も、まだ届かない。郵便を送った、とわざわざメールで知らせてくれる人ばかりではないだろう。ほかにも届いていない郵便があるかも知れない。「あいつは返事も寄こさない」と、日本で陰口を叩かれている可能性もある。

このブログの8月15日付「郵便受けは悲しからずや」で書いたように、以前も日本からの航空便は届かなかった。ところが、北京オリンピックのころはちゃんと届くようになった。それどころか、配達人が来た時に留守していると、書留でもないのに郵便受けには放り込んでくれない。わざわざ郵便局まで受け取りに呼び付けられた。生真面目さ(?)にいささかうんざりしたものだった。ところが、オリンピックも終わり、また元の木阿弥に戻ってしまった感じである。かわいそうに、郵便物はどこかに捨てられているのだろうか。

一方、同じ日本からの郵便でもEMS(国際スピード郵便)を使うと、まずは確実に3日か4日で到着する。届くのが遅ければ、今どこに郵便物があるのかも追及できることになっている。その代わり、料金はかなり高い。ところで、この郵便は「国際」と名乗っているのだから、外国に送る時だけに使うのかと思っていたら、中国ではこれを国内でも使っている。想像するところ、普通の郵便では信用できないからかも知れない。あるいは、わざと普通の郵便の信用をなくし、料金の高いEMSを使わせようという、郵便局の「高等戦術」のなせる技かも知れない。仕方なく僕も最近は中国国内でよくこれを使っている。

ところが、これにも何かと問題がある。やはり去年の秋、ハルビンの知人に頼んで、桂林までEMSで書類を送ってもらったことがある。中国国内だから2日か3日で届くだろうと思っていたが、5日たっても届かない。この知人に電話し、現在どこでどうなっているのか、郵便局へ行って調べてほしいと頼んだ。知人が郵便局へ行くと「そんなことはインターネットを使って自分で勝手に調べろ」と追い返されたと言う。

まあ、仕方がない。言われた通りインターネットで調べてみた。なるほど、現在の状況がちゃんと出てきた。「郵便物はハルビンから桂林へ向かっています」。そんなことは分かっている、知りたいのは今どこでどうしているかだ!! 思わずパソコンに向かって怒鳴ってしまった。

さらに調べていくと、郵便局にはEMSの届くのが遅れたりした時に、問い合わせや苦情を受け付ける窓口のあることが分かった。さっそく電話してみた。だが、朝、昼、晩、何回電話しても、呼び出し音がむなしく響くばかりだ。EMSを配達している郵便局員がたまたまわが塾のそばを通りかかった。彼を捕まえ、どうして誰も電話に出ないのか、尋ねてみた。答えは明快だった。

「そういう部署は確かにあります。専用の電話も置かれています。ただし、人は誰もいません」。ほぼあきらめていたEMSは7日目にやっと届いた。

とかく腹の立つことの多いこの地の郵便局だが、カワイイところもある。日本へEMSを出そうとした時、重さ何十グラムかの差で料金がポンと跳ね上がった。くやしい。うーん、とうなっていると、女性局員がやおらハサミを取り出し、段ボール箱の耳の部分と言ったらいいのだろうか、端っこのほうを削り始めた。おかげで、日本円換算で1000円ほど安くなった。

郵便局を褒めたついでに少し弁護すると、そもそも当地では郵便受けを備えた家はきわめて少ない。わが塾のある2棟のアパートには50軒ほどが入っているが、見回ってみると、郵便受けのあるのはわが塾を含めて3軒だけ。塾の生徒10人ほどに「家に郵便受けのある人は?」と尋ねてみると、手を挙げたのは2人だけだった。日系企業の中国人幹部もわが塾に来てくれているが、「自宅に郵便受け? そんなものはありません。必要なら、会社に送ってもらえばいいのですから」と、そっけない。ハルビンではアパートの1階に全戸の郵便受けが付いていたと記憶しているが、桂林で僕が住んでいる団地では、そんなものはいっこうに見かけない。人々の多くは「郵便」なんてものが眼中にないのだろう。

これじゃ、郵便局も困るだろう。証拠の残るEMSなぞは何とかして届けるが、あとは捨てちゃえ、どうせ証拠も何も残らないのだから・・・。その気持ちも分からないではない。去年秋、日本からの郵便が1通だけ届いたと書いたが、これはB4大のハトロン紙の封筒に入っていた。大きいので、郵便局も捨てるのに二の足を踏んだのではないか。届かなかった2通は普通の小さな封筒だった。わが塾の郵便受けに、ダイレクトメールらしきやはりB4大の封筒が間違って入れられていたこともある。大きな封筒なら届くのだろうか? 小さな封筒なら行方不明になるのだろうか? これからしばらくは郵便を大きな封筒で出したり、小さな奴で出したりして、届き具合を試してみようかと考えている。