桂林観光は「落石」にご注意

日本での夏休みから桂林に戻り、久しぶりに某公園に行った時のこと。入り口の近くで「落石に注意 急いで通ってください」という看板を見掛けた。その横を中国人観光客がゆっくりと通り過ぎていく。下の写真でも分かるように、看板はまだ新しい感じだ。「小心」は日本語だと「注意する」という意味。この公園にはよく来るのに、いつの間にこんなものが出来たのだろう?

桂林の公園はカルスト地形の山々をその中に抱えている。あるいは、山そのものが公園になっている。街中でも山と住宅が「共存」している。下の写真のように、巨岩の下に住宅街があったりする。実に壮観だし、絵にはなるのだが、もし、あの大きな岩が落ちてきたら・・・と恐ろしくもある。でも、街中でも公園でも、こんな落石注意の看板を見掛けたのは初めてだ。

ところが、その後、少し気をつけて見ていると、次々と目につきだした――下の写真の看板は別の公園でのもの。「危険区域 急いで通れ」という表示のそばを、やはり中国人観光客がぞろぞろと歩いている。もう一つの看板には「近づかないでください」とある。なのに、観光客は「危岩」「山石滑落」のすぐ横でのんびりと遊んでいる。誰も石が落ちてくるなんて、露ほども思ってもいないみたい。

でも、本当に落石の危険があるのなら、こんな看板を出しただけで当局がのほほんとしているのは、まことにおかしい。まず、あたりの通行を禁止する。その後、落石防止の工事をする。それが筋と言うものではないか。さらに別の公園に行くと、下の写真のように、避難の方向を示した看板もあった。ご親切なことである。でも、岩が頭上に迫ってきてから、そちらへ走り出してどうなると言うのだろうか? これらの看板は「ちゃんと注意はしておきましたよ」という、役所の責任逃れのためにあるのではないのか。

それに、こうした公園にある山は300段から500段ほどの階段を伝って頂上まで登れるようになっている。下の方が危ないのなら、上の方だって危険なのではなかろうか。当然、登山も禁止した方がいいのではないか。

気になりだすと不思議なもので、地元紙をめくっていても、この種の記事が目につきだした。下の写真は10月中旬の『桂林晩報』。記事によると、農家のそばにある山の頂上(記事では、高さは不明)から6トンの巨岩が転がり落ちてきて、三軒を押しつぶした。幸い家人は外出していて死傷者はいなかったが、近くにいた老人によると、何度も大きな音がとどろいて、しばらく耳が聞こえなくなった。最後は地面が揺れたそうだ。

別の日の同紙記事によると、わが塾からそう遠くない山にも、落ちそうな岩がなんと31か所にあるという。ここでは去年の夏と一昨年の夏、数十立方メートルの大きな岩が落ちてきたとのこと。雨の多い夏には地盤も緩むのだろうか。困った夏の風物詩ではある。

もっとも、当局もまったく手をこまねいているわけではない。上記の場所では80日をかけて落下防止工事に取り組んでいると言うし、別の場所でも、下の写真のような光景を見掛けた。岩肌にやぐらが組まれている。近づいて写真を撮ろうとしたら、作業員のおじさんに大声で注意された。よほど危険なのかも知れない。岩肌のすぐ下にはレストランがある。

役所の責任逃れのほかに、もうひとつ腑に落ちないのは、公園の中の落石注意の看板が中国語でしか書かれていないことだ。入り口には英語のほか日本語でも「ようこそ、お出でくださいました」と書いてある。それなのに、落石の注意喚起は中国語だけ。街中の道路脇で見つけた落石注意の看板も同じだった。国際的な観光都市である桂林へは欧米や日本、韓国からもたくさんの観光客がやってくる。日本人なら「小心落石」の中国語もなんとか判読できるが、ハングル世代の韓国人には分からないかも知れない。欧米人に至ってはちんぷんかんぷんだろう。

危険は同胞の中国人だけにしか知らせない。ちょっと勘繰ってみると、中国人は一般的に安全感覚といったものが乏しいみたいだ。だから、落石の危険を知らせても、観光客が減ることはない。ところが、日本人や欧米人に知られると、たちまち観光客が減ってしまう。そんな計算でも働いているのだろうか。

いずれにしろ、桂林の山々がいかに美しくても、近づいたりはしないで遠くから眺める。それが無難なのかも知れない。あるいは、思い切って岩肌とたわむれたり、真下を歩いたりし、食事はさっきの写真にあったレストランでというのも、肝試しになっておもしろい。いい土産話になるかも知れない。