僕の見た「反日デモ」

9月18日、わが南寧市で「反日デモ」があるという。市内の人民公園にある「革命烈士紀念碑」前に集まって街中に繰り出し、高層ビルが建ち並ぶ金湖広場まで行進するとか。東京で言えば、日比谷公園から新宿副都心までといった感じである。僕は1年の大半を中国で暮らすようになって10年以上になるが、まだ「反日デモ」に遭遇したことがない。この機会を逃してなるものか。当日、早起きして8時半前に集合場所に駆け付けた。

ボツボツと人が集まってきている。小さな中国国旗の束を抱えた若い女性もやってきて、小旗を配っている。「給我」(私に頂戴)。僕もそう言って1つもらった。下の写真がそれなのだが、どこか変である。落ち着きが悪い。中国の国旗は「五星紅旗」と呼ばれ、大きな星1つ、つまり中国共産党を小さな星4つが囲むように並んでいる。小さな星は労働者や農民などを象徴しているそうだ。

ところが、この旗には小さな星が3つしかない。「四星紅旗」である。程度の低い連中だなあ、自分の国の国旗も知らないなんて・・・と一瞬思ったが、いや待てよと思い返した。深い意味があるのかも知れないぞ。つまり「反中国共産党」を意味しているのではないか? 本来なら、一番大きい星を落とすべきなのだが、それでは余りに目立ちすぎる。手が後ろに回り兼ねない。それで・・・と深読みもしてみたが、真相はもちろん藪の中である。ただ、周辺の人たちが持っている中国国旗を見ると、僕のような「四星」は少数派で、大多数が「五星」だった。

揃いのTシャツを着た連中も結構いる。背中には「抵制日貨」、つまり「日本製品ボイコット」とのスローガンとともに、「ブラックリスト」として日本企業の名前が並んでいる。ソニーパナソニック、ホンダ、トヨタ日清食品キリンビール資生堂・・・おやおや、企業名に並んで「午後の紅茶」「日本酒」なんていうのもある。いささか整合性に欠けるのではないだろうか。

9時ごろ紀念碑の前で集会が始まった。「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国のものだ」といった横断幕が掲げられ、最近の流行?なのか、毛沢東氏の大きな顔写真か肖像画かが登場している。中年の男がアジ演説をしている。参加者は何人ぐらいだろうか。付近の人数だけだと200人か300人はいそうだが、参加者と野次馬との区別がつきにくい。このあたりは普段から踊ったり、太極拳をしたり、あるいはバドミントンをしたりの中高年が多いところだ。そんな人たちも集まってきている。ふと顔を上げると「琉球と釣魚島は中国に属する 潘基文」との横断幕が目に入った。おいおい、国連の事務総長がそんなこと言うはずがないじゃないか。

集会が終わった。紀念碑は小高い丘の上にあり、ここから階段を200段ほど下りたところに広場がある。参加者たちは「祖国を守れ」「日本製品ボイコット」などと叫びながら広場に向かって勢いよく階段を駆け下りた。そして全員がまた階段下に集まりわいわい騒いでいる。周りからこれを撮影している人が多い。カメラを見ると、キヤノンニコンソニー。僕はオリンパスで撮りまくったが、危険は感じなかった。

さあ、いつ街中に出て行くのか。期待して待っていたのだが、一向に動く気配がない。デモ隊を警官たちが遠巻きにしている。下の写真がそうだ。少し見にくいが、画面左の中ほどに空色のシャツを着た連中がいる。これがいわば普通の警官たち。その外側に黒ずくめの連中がいる。これが武装警察だ。もうちょっとデモ隊に近付いてみると、まるで小説の題名のような「赤と黒」である。黒装束の男たちは体格もよく、なかなかにいかつい感じだ。


デモ隊は彼ら警官たちに囲まれて気勢を上げるだけ。これが20分、30分と続いただろうか。やがて「解散命令」が出たみたいだ。デモ隊は「釣魚島・・・」などの横断幕をくるくると巻いて片付け始めた。なあ〜んだ、もう終わりなの? いささかがっかりしていると、50人ほどが国歌か何かを歌いながら、出口に向かって行進を始めた。あっ、彼らは街中に出て行くんだ。後を追っかけた。ところが、公園の出口まで来ると、鉄格子の門が閉まっている。向こうには警官たちが並んでいる。デモ隊はなすすべもない。三々五々、引き上げて行った。

以上が中国で初めて遭遇した「反日デモ」の一部始終である。ひとつはっきりと分かったのは、警官隊、つまりその後ろにいる政府や共産党はデモ隊を完全にコントロールできるということである。中国は広いから、地方によって多少の差はあろうが、南寧でのデモ隊は警官たちの言いなりであった。あれだけ「欲求不満」の状態に置かれながら、僕の見る限り、デモ隊からは暴言ひとつなかった。小競り合いひとつなかった。すべて唯々諾々、言い換えれば、各地の反日デモ隊は共産党の最末端の「組織」なのであろう。いわゆる「デモ隊の暴徒化」は共産党の「自作自演」に過ぎないと言われるのも「むべなるかな」である。