「ずうずうしい」と言うよりも・・・

わが塾の相棒、中国人の先生の携帯電話にメールがあった。いわく「私は今、12月の日本語能力試験の1級を目指して頑張っているが、これから受験までどのような勉強方法がいいのだろうか、教えてほしい」。相手は誰だっけ? 名前はないし、「突然のお願いで申し訳ありません」といった類の言葉もない。

無視してもいいのだが、相棒の先生は親切に返事をした。「試験までに模擬テストを3〜4回、やってみたらどう?」。すぐ返事があった。「私もそう思います。だけど、インターネットで探しても、いい問題が見つかりません。古いです。そちらにはきっと新しい問題集があるのでしょうね」「もちろんです。時間があったら、一度塾に来ませんか」。メールのやり取りが続いた。

次はメールではなく電話があった。若い男の声だ。「私は今、南寧ではなく長沙にいるので、そちらには行けません」。長沙はわが南寧から北東に汽車で一晩ほど行った所にある都市である。「ついては、その問題集のコピーを郵便で私あてに送ってください。これからメールで送り先を教えます」。代金はいくらかとかいった言葉は一切ない。男は以前、南寧にいて、わが塾にも見学か何かで来たことがあるのかも知れない。この男との付き合いはこれで終わった。以後、何回か男から電話があったが、一度も出ていない。

この春、わが塾に来た大学2年生の女の子がいる。「あいうえお」からの勉強で、「初級の授業料は年2800元(1元=12〜13円)」には素直にうなずいてくれ、授業が始まった。その後の授業料の徴収などは、今は就職や留学でいなくなった師範代たちに任せておいた。だが、彼女に授業料を請求すると「授業がすべて終わってから払います」と、にべもないそうだ。やっと800元だけ払ってくれたが、残りは頑として払わない。そのまま2カ月、3カ月が経った。師範代たちは「もう私たちでは手に負えません」と、当方に泣きを入れてきた。

経営陣?の出番である。彼女を呼んで、まずは穏やかに切り出した。「大学だって授業料は前払いでしょう? 私たちの塾も前もって払ってもらわないと困ります」。彼女の返事は意外だった。「大学にも私は授業料を払っていません」。聞いてみると、「貧困学生」ということでそれなりの手続きをすると、政府かどこかが無利子のローンを組んで代わって払ってくれるのだそうだ。彼女は1年生の時は授業料を払ったが、2年生になってからは親の指示もあってそれを利用している。もちろん、いずれは返さないといけないのだが、彼女の口振りからすると、返すつもりはないみたい。だから、大学にさえ授業料を払っていないのに、なんで塾ごときに・・・ということなのだろうか。

仕方がない。強硬手段に訴えざるを得ない。「あなたが塾に払った授業料はすでに切れています。あしたから塾に来ないでください」。そう申し渡した。すると、数日後、彼女は残りの分を持ってきた。大学の3年生になった今、彼女は機嫌よくわが塾で勉強を続けている。そうなら最初からすんなりと払ってくれれば、お互いに気持ちよかったものを・・・。

大学4年生の女の子から日本語で僕に電話があった。南寧在住の日本人の紹介で、電話があることはあらかじめ聞いていた。で、用件というのは――南寧から汽車で5時間ほど行った所に梧州という町があり、ここに日本のシチズン系列の部品会社がある。当地では大企業である。彼女もその梧州の出身なので、卒業後は郷里に戻ってこの会社に就職したい。ついては、彼女をこの会社に推薦してほしいとのことだった。実はこの6月、わが塾にいた女性が1人、同社に就職している。電話の彼女はそのことを知っていて、僕がシチズンに顔が利くと誤解しているようだ。

顔が利く、利かないは別として、困ってしまった。一度も会ったこともない人を推薦するなんて、そもそも変じゃないの? そう彼女に言うと「そうですかぁ」と、納得できないような返事だ。翌日の昼飯時、彼女は約束もなしに僕の住まいにやってきた。どうしてわが家を知ったのだろう? ちょうど僕は授業の後で塾にいた。彼女から「家に来ましたが、留守なので、履歴書をポストに入れておきます」と電話があった。

履歴書を見ると、彼女の専攻は日本語とは関係がない。日本語能力試験といったものは何も受けていない。その割には日本語が達者で、異国で日本語の教育に携わる者としてはご同慶の至りである。でも、おいそれとご要望に応じるわけにはいかない。「せめて日本語能力試験の1級に合格してから・・・」とメールを送っておいた。

以上の3人の若者――「厚かましい」とか「ずうずうしい」とかいった表現では収まらない感じがする。それを1歩か2歩、突き抜けていると言うか、次元が少し違うと言うか・・・そして老若男女、当地ではこんな人たちにちょくちょく出くわすのである。