美女の産地

2012年版の中国「美女の産地」の1位はハルビン黒竜江省)、2位は重慶、3位はそのお隣の成都四川省)というニュースが国営の新華社から流れていた。インターネットのユーザーたちが「容姿」「おしゃれ・ファッション」「情緒・雰囲気」の3項目を基準に選んだ結果とのこと。ハルビンは「容姿」で1位、その他では上海などに劣ったが、総合では堂々の1位に輝いた。また、ハルビンの「美女率」は約24パーセント、つまりハルビン女性の4人に1人が「美女」とのことだった。

そのハルビンは僕が2001年から06年まで過ごしたところだ。ハルビン理工大学の日本語科で教えていた。かの地が美女産地の1位だって!! とりわけ容姿が・・・そう言えば、確かにそうかもなあ、と当時の記憶が蘇ってきた。あれは夏の初めの朝だった。授業に出るため、僕はキャンパスを教室へと急いでいた。前を女子学生が3人、並んで歩いていた。なにげなくその後ろ姿を見て、僕は衝撃を受けた。3人が3人とも、そろいもそろって、なんてスタイルがいいんだろう。腰からお尻、そしてお尻から脚に掛けての「線」が芸術品のように思える。日本でこんな後ろ姿の女性を見掛けたことがない。

ところで、誓って言うけど、僕はいわゆるスケベではない。でも、美しいものは分かる。彼女たちのご尊顔も拝見したくなった。足を速め3人より前に出て、それとなく振り向いてみた。どんなお顔だったかは覚えていない。ただ、少しだけがっかりしたような記憶が残っている。

ハルビンに限らず中国の北方の女性にはスラリとした人が目立つ。つまり、脚が真っすぐなのだが、「それなりの努力をしているからです」と、ハルビン人からよく聞かされたものだ。まず、生まれたばかりの赤ん坊を寝かせる時、腕と脚の辺りを2カ所、紐で軽く縛っておく。その前には丁寧に全身マッサージをする。真っすぐな姿勢で寝るようにするためで、自然にそうなるまで生後何か月かは続ける。同じ目的で、寝る時にはおしめをはずす。「寝ている時にまでおしめをすると、がに股になってしまう」。夜中に粗相があっても我慢する。

これらは女の子も男の子も一緒だが、男の子の場合はさらにひと工夫が要る。おちんちんを両脚の間に挟んだままだと、寝ている間、わずかだけど脚を曲げることになる。で、おちんちんは脚の上に乗せるようにする。これはおちんちんの「成長」のためにもいいのだそうだ

おしめの赤ん坊を背中におんぶして、つまり、子供の脚を曲げさせたまま出歩くなんていうのも、とんでもないことだ。でも、ハルビンに限らず東北地方(旧満州)で、赤ん坊の脚を曲げさせておんぶする女性を見掛けないわけではなかった。それをハルビン人に指摘すると「たぶん(東北地方に多い)朝鮮族ではないですか。漢族はそんなことはやりません」と一蹴された。やむを得ずおんぶをする時は、脚を真っすぐにさせ、立った姿にしてから背負うのだと言う。

子供が歩き出してからも、親たちの「努力」は続く。例えば、床の上の1本線の上を歩かせる。歩く姿を美しくするためで、これが習慣になるまで繰り返す。女の子の場合は特に力が入る。かくして、ハルビンが中国一の美女産地となったのであろう。僕がそこにいた時、中国人から「日本の女優さんはどれほどの美人でも脚が曲がっていますね」と言われ、いささか頭に来たことがある。

話はわが南寧に飛ぶ。先日の朝、わが家の近くの大学のグラウンドで塾の仲間とサッカーボールを蹴っていたら、1〜2歳のよちよち歩きの男の子を連れた女性が寄って来た。孫がボールに興味を示しているので、少し触らせてくれということだった。その女性が問わず語りに話すのを聞いていると――彼女はハルビンからそう遠くはない天津の人なのだが、息子が南寧の大学を出てそのまま地元の女性と結婚し、当地に住んでいる。それで時々、はるばる南寧にやって来る。生まれた孫は嫁の両親が面倒を見てくれている。

それはそれでいいのだが、こちらの人間は赤ん坊の腕や脚を縛って寝かせるなどといったことを全くやらない。寝ている間もおしめをさせたままだ。同じ中国でも北方とここ南方とでは随分と習慣が違う。息子の嫁に注意すると、「縛るなんて、そんな残酷なことは出来ません」と反対され、喧嘩になった。赤ん坊は軽く縛ったくらいでは痛がらないのに・・・おかげで、可愛い孫はもう脚が曲がってしまっている――彼女の嘆き節であった。

そんなこの地は「美女の産地」としてはどうなのか。さっきの新華社のニュースには全く出てこない。そこで、試みに中国語で「ブスの産地」を検索してみると、そのベストテンが出てきて広州が1位だった。「ブス度100パーセント」とある。美女ゼロということか。南寧は美女ランキングにもブスランキングにも出てこないが、南寧のある広西チワン族自治区(と言っても漢族が主流)と、ブス1位の広州がある広東省は「両広」と呼ばれている。わが南寧や広西は「美女の産地」「ブスの産地」でもお隣のワーストワンさんの仲間なのだろうか。