中国⇔ベトナム「不愉快」旅行

「地元広西の旅行会社」に頼んで行く「ベトナム・パック旅行」は、客扱いが本当にひどい。最近でこそやらなくなったみたいだが、例えば、客を賭博場に連れて行って半日、放り出しておく。二度と行くものではない――そんな話をかねがね聞いていた。じゃあ、僕も一度は行ってみようではないか。どれほどひどいのか、その「不愉快さ」を体験してみたい。でも、1人で行くのは怖い。同行者を募ったら、塾の仲間の女性2人がサポートしてくれることになった。ただし「不愉快だからといって、途中で文句を言わないでください」と約束させられた。ちなみに広西チワン族自治区ベトナムは国境を接している。

出発前から不愉快なことがあった。広西の区都(省都)南寧とベトナムの首都ハノイを3泊4日で往復するバス旅行なのだが、料金が「人」によって違う。外国人である僕と、当地に戸籍がある仲間の1人は730元(1元≒16円)、他の省に戸籍があるもう1人の仲間は700元。どうして、30元の差? 聞いてみると、理由はこうだった。ガイドが客を土産物屋に連れて行った際には、店からいくらかのリベートをもらうのが慣例になっている。その分を僕や地元の人間は土産物屋に代わってガイドに前払いする、他省の人間の分はガイドが土産物屋から取り立てる、とのことだった。30元は「人頭費」と言うそうだが、道理も何もない、全くわけの分からないカネである。

ともあれ、バスは出発した。南寧から、ベトナムとの国境のある東興市まで約4時間の旅だ。意地悪そうなおばさんのガイドが何やらまくし立てている。ほとんど聞き取れないが、ひとつ気になる話があった。このバスは大き過ぎるので国境までは入れない。途中で小さな車に乗り換えなければならない。その代金が往復で40元、今すぐ払ってくれとのことだった。何か腑に落ちない話だが、仲間がまとめて払った。で、終点の東興市に着いてその小さな車――遊園地によくあるような奴に乗ったのだが、走ったのは1分余り。これで20元とは、まさに詐欺、ぶったくりの類である。歩いてもよかった。ちなみに、南寧市の中心部から40分ほど離れた空港までのバス代が20元である。ガイドのおばさんに文句を言おうにも、彼女はとっくに姿を消している。

国境の、そう広くもない川に掛かった橋を渡るとベトナムである。我々20人余りのグループにガイドが3人ついている。1人は東興市からついた中国人の男性、2人はベトナム人の女性だ。ベトナムに入った後、我々はそのガイドに付いてぞろぞろと歩いて行った。どこに行くのだろうか。期待していると、数分後に着いたのは土産物屋だった。ガイドが客を土産物屋に連れて行きたがるのはよく分かる。買わなければいいのだから、目くじらを立てるつもりはない。ガイドは固定給がなく、こうしたことで収入を得ているとも聞く。でも、入国した途端、まず土産物屋とはどういうこと? とにかく今回は土産物屋によく行った。わずか3泊4日の旅で「強制的」に連れて行かれた土産物屋は計5軒にもなった。

我々が土産物屋にいる間、ガイドや運転手はトランプに興じている。現金が派手に行き来している。僕もこの種のことは嫌いではないけど、客の面前で「賭博」とはいかがなものであろうか。

今回のベトナム旅行のハイライトは「ハロン湾」(下龍湾)の船旅だったが、不愉快さもここで最高潮に達した。このハロン湾ではカルスト地形の山々が海の中から突き出している。「海上の桂林」とも呼ばれているそうで、桂林では見慣れた山々だが、それが海の中ということもあって、ちょっとした景観ではある。ガイドの話だと、湾内を巡る観光船は700隻以上。観光客は圧倒的に中国人だが、日本人、韓国人、欧米人も多く、湾内は観光船でいっぱいだった。

で、「不愉快さ最高潮」のことだけど、まず4時間ほど観光船に乗る。この分の代金は前払いした700元の中に入っているが、その後、さらに素晴らしい島に連れて行き、上陸もさせるので、2時間ほどの追加料金として360元を払えと言う。べらぼうである。でも、断ったら(冗談だけど)海に放り投げられるかも知れない。仲間の女性2人は「仕方がありません。ただ、360元のうち100元はモーターボートに乗る料金です。危険ですから、これは断りましょう」と言う。結局、260元ずつ払わされてしまった。

当日の昼食は船上で取ったのだが、食事が終わった途端、筋向かいのテーブルの上で回っていた扇風機のカバーと羽根がはずれ、食卓を直撃した。食器がいくつも割れ、悲鳴が上がった。でも、船長らしきベトナム人のおじさんは「没問題」(メイウェンティ なんでもありません)と中国語で言ってニヤニヤしている。ガイドたちも知らぬ振りをしている。幸いけが人は出なかったが、本来なら船員とガイド一同が平身低頭して謝るべき事態である。

初日、南寧からバスに乗った時、ガイドのおばさんが「あなた方はもう煮られたアヒルと同じです」と言っていた。「煮て食おうと、焼いて食おうと、こちらの勝手だ」という意味だろう。随分えげつないことを言うガイドだと思ったが、以後はまさにその通りであった。

いやあ、ほんとに不愉快、不愉快・・・でも、この旅行の目的は、地元の旅行会社によるベトナム・パック旅行の不愉快さを体験することであった。その意味では期待以上の不愉快さを満喫し、まことに「愉快な旅」ではあった。