街角に見る「貧」と「富」

朝6時ごろ、週に数日だけだが、わが住まいに近い大学のグラウンドで塾の仲間とボールを蹴っている。そして、日によっては、ボールを蹴る前にひと仕事がある。ペットボトル、ビールの空き瓶、空き缶、ジュース類の空き容器・・・人工芝の上に散乱した奴をグラウンドの外に蹴り出す仕事だ。前夜、おそらくこの大学の学生が狼藉を働いたのだろう。もちろん、たばこの空き箱や吸い殻、ティッシュ類も散らかっている。

ある日、例によってペットボトルを蹴り出そうとしていたら、向こうからおじいさんが声を掛けてきた。どうやら、そのペットボトルは自分に任せろ、と言っているみたいだ。蹴るのをやめて眺めていると、おじいさんは肩から提げた鞄にそのペットボトルを入れて立ち去った。どこかに持って行って売るのだろう。開襟シャツを着て、結構こざっぱりした身なりのご老体だった。数日後にもやはりグラウンドで、今度はランニングシャツに短パン姿のおじいさんが大きなポリ袋にペットボトル類を入れながら歩いているのを見た。

へえ、最近、グラウンドにこういうおじいさんが現れ出したんだ。そう思って仲間に聞くと、僕の観察不足をたしなめられた。ここはおじいさん2人とおばあさん1人が縄張り?にしていて、おばあさんが朝早くてすばしこいのだそうだ。そう言われれば、そんなおばあさんを何度か見掛けたことがある。

小旅行から南寧に戻り、鉄道の駅前広場で缶ビールをあおっていた。なに、途中で買った奴が1缶だけ残っていたので、バスを待っている間に処分してしまおうと思ったのだ。と、いつの間にか、僕の横によく日に焼けたおばあさんがやって来て、じっと僕を見ている。ん? 何か用? あっ、分かった、僕が缶ビールを飲み終わるのを待っているのだ。空き缶を渡すと、おばあさんは黙って頭陀袋に入れて去って行った。

わが東方語言塾が借りている7階建てのアパートの辺りは、同じようなのが3棟並んでいて、ひとつの小さな団地になっている。アパートの最下層は一部が商店になっているほかはガレージや物置なのだが、そのひとつに80歳ぐらいのおばあさんが1人で住んでいる。トイレや台所は管理人小屋にあるのを借りているらしい。

このおばあさんの日課は団地内のごみ箱をぐるぐると回ることである。団地の庭には大きめのごみ箱が7つか8つ置いてある。おばあさんは杖を突きながら丹念にこれらを見て回り、ペットボトル、瓶、缶、ダンボール、新聞紙など少しでもカネになりそうなものを集めている。団地の外の道路脇にもごみ箱があるので、時にはそちらにも遠征している。噂によると、おばあさんは一人息子を亡くし、生活費は孫娘が送ってくれるそうだが、これらごみ箱からの上がりも欠かせないのだろう。

話は180度、変わる。南寧にも日本人経営のレストランがぼちぼち増えてきた。ご同慶の至りで、そんな店のひとつで先日、「広西日本商工会」の年次総会があった。広西日本商工会というのは広西チワン族自治区内にある王子製紙シチズンなどの日系企業を中心とした集まりで、僕も末席を汚している。総会開催の店は「炭火焼き肉」を看板に掲げていて、開店したばかり。総会後の懇親会には売り物の「黒毛和牛」「上カルビ」「牛タン」から「刺し身」「寿司」まで、しばらくお目に掛かっていないご馳走が出てきた。お代は「皆さんから集めている会費で処理します」とのこと、いくら掛かったのかは分からない。

店は100人やそこらは入れそうな広さ。これが3つ目の店だと言う日本人店主に祝いを述べると、「1日に2万元(1元≒16円)は売り上げないといけないから楽ではないです。でも、先日来てくれた役人夫婦は8000元も使ってくれて、ありがたかったです」。お付きもいたそうだが、なんとも豪勢なものである。恥ずかしながら、僕の4か月分の生活費に相当する。

この炭火焼き肉から遠くない所にも日本の某大手レストランが「鉄板焼き」の店を準備中だ。その店の主も広西商工会の総会に来ていたので、どんな店なのか、尋ねてみた。「2階はうんと豪華にして役人とかに来てもらう。接待用ですね。1階は南寧の一般のお金持ちが相手です」。僕はとても2階には行けない。で、1階のほうの1人当たりの売上単価はいかほど? 「200元以上ですね」。大した金額ではないと思われるかも知れないが、こちらの普通の人にとっては大金である。僕にとっても高すぎる。地下でいいから50元ぐらいで食べられる店も作ってくれませんか。僕は思わず叫んでしまった。

さっきの空きペットボトルは1本0.02元かそこらで売れるそうだ。それらを求めてうろつくおじいさん、おばあさん。一方で、夫婦で8000元の夕食――昨年秋の中国共産党の党大会の頃には「共産党があったからこそ、今の中国がある」というスローガンが街にあふれていた。白々しいのが多い共産党のスローガンの中で、これは実に素直で、かつ意味深げであった。