水洗トイレは発展途上段階

欧米のブランド品を目玉に中国のブランド品などを網羅したショッピングセンターが南寧に誕生した。地下1階、地上6階、総面積は28万平方メートルと言い、レストランを含めて店舗が300ほどある。日本勢では「ユニクロ」がいくつかの「主力店舗」の1つとして入り、「無印良品」も出店している。センターの玄関にはアメ車「キャディラック」が何台か並んでいて、近くの壁には「KING OF THE CITY」と刷り込んである。パンフレットを見ると「万象城」という名前で、この国の大都市にはいくつか出来ているらしい。

以上のことには少しも驚かないのだが、ここのトイレでは中国での「初体験」をした。トイレに入った時、1人のおじさんがモップを手に黙々と床を拭いていた。そして、僕が手を洗い、ポケットからハンカチを出そうとしていると、そのおじさんがスーッとそばに寄ってきて、壁の装置から紙タオルを引き抜いて僕に渡してくれた。紙タオルで手を拭いても、僕の手にはまだ少し水滴が残っていた。それを見たおじさんはさらに紙タオルを2枚ばかり引き抜いて僕に渡した。いやぁ、恐縮です。

この万象城のトイレを探索してみる気になった。その結果、地階から6階まで各階1か所ずつのトイレには男性用はおじさん、女性用はおばさんが1人ずつ常駐していることが分かった。壁にはそのおじさん、おばさんのはがき大の顔写真があり、中国語と英語で「私が皆様に奉仕いたします」と書き添えてある。さらに観察していると、誰かが「大」から出てくる度に、おじさんはすぐ中に飛び込んで掃除している。「小」はしょっちゅう掃除するわけではない。想像するところ、「大」ばかりの女性用トイレのおばさんはさぞかし忙しいことだろう。

5つ並んだその「大」をチラリと覗いてみると、4つは中国式(和式トイレから金隠しをはずしたような奴)だが、1つは洋式だった。ホテルや自宅を除いて街中のトイレで洋式というのは珍しい。それに5つの「大」全部にトイレットペーパーが備えられていた。これもびっくりだった。一般にこの地ではデパート、レストラン、スーパーマーケット、ショッピングセンターから学校、病院に至るまで、不特定多数の人が利用するトイレにはトイパーが備えられていない。トイパーやティッシュペーパーは自分で持参しなければならない。

東京マラソンに参加した中国人が「コース脇の臨時トイレにトイパーが備えてあった」と驚いている文章を読んだことがある。蛇足ながら、中国のマラソン大会ではどうしているのだろうか? 選手はトイパーを持って走っているのだろうか。それとも、トイレそのものがないのだろうか。

先日、教え子の女性がしゃれたレストランでご馳走してくれた。食事がほぼ終わりかけた頃、彼女はテーブルのティッシュの箱からシュッシュッと紙を3枚ほど引き抜いた。そして「ちょっと失礼します」と言いながら消えて行った。手にはしっかりと紙が握られている。中国ではよく見掛ける光景だ。彼女が悪いのではない。トイパーを備えないレストランに非がある。でも、もし彼女に日本人の恋人がいて、この光景を初めて目にしたら、それこそ「百年の恋」も冷めてしまうのではないだろうか。

トイレにトイパーを備えたレストランがないわけではない。たまに行く日本料理店にはあるし、先日入った「ケンタッキーフライドチキン」(KFC)にもあった。4大国有商業銀行の1つである中国銀行の南寧支店にもある。ただ、ちょっと気になることもある。日本では普通、1つのトイパーがなくなったら、上から別のトイパーが下りてきたり、あるいは予備のトイパーが横に置いてあったりする。だが、こちらではそういうようにはなっていない。

代わりのトイパーをどうやって補給するのだろうか? 疑問に思っていたら、中国銀行南寧支店に時々行くと言う中国人女性が明快な答えを与えてくれた。「早めに行くとトイパーがありますが、遅くなるとなくなっていることが多いです」。予定数終了ということだろうか。

床に長方形の穴を掘っただけ、お隣さんとの仕切りもない、いわゆる「ニイハオトイレ」なるものは、南寧あたりでは見掛けなくなった。街中のトイレは水洗である。ところが、農村から出てきた人の中には水洗の使い方のよく分からない方もおられるのだろうか。とても奇麗とは言えない水洗トイレも目立つ。鉄道の南寧駅前にある水洗の公衆トイレなぞは二度と行きたくない所の1つだ。

思うに、さっきの万象城のトイレにおじさん、おばさんが常駐していて、「大」の使用後、すぐに掃除をするのは、以上のようなことを避けるためかも知れない。「KING OF THE CITY」の面子もあるはずだ。また、トイパーの減り具合を確かめ、補給しているのかも知れない。前もって予備のトイパーを置いておけば、盗まれる恐れもあるからだ。水洗化されたわが南寧の街中のトイレではあるけれど、まだまだ発展途上段階にあるのだろう。