何を食べたらいいのだろう?

いま、この中国で何を食べたらいいのだろう? 豚肉はもとから敬遠していた。出荷前の豚に体重を増やすため泥水を飲ませている。10年ほど前、中国の新聞で写真つきのそんな記事を読んで以来だ。上海の川に1万匹以上の豚の死骸が流れていたのは最近の話。その結末がきちんと報じられていないのも怖い。死骸の肉が缶詰かなんかに化けているかも知れない。

鶏肉は鳥インフルエンザが怖くて手が出せない。牛肉もよくない。こちらのスーパーで買ってくる奴はどうも肉が固い。噛み切るのに苦労する。牛は牛でも水牛ではないのだろうか? まあ、草を食んでいる羊肉ぐらいは安全かと思って、しゃぶしゃぶの店には時々通っていたが、これもネズミの肉が交じっていたりするらしい。肉類は総崩れである。ハム、ソーセージも手が出せない。

鶏卵も怖いが、20分近くゆでることにして、食べている。ただし、熱いご飯に生卵としょうゆという、子供のころから親しんできた「卵かけご飯」は出来なくなった。日本に一時帰国したときの楽しみに残している。

1年半ほど前、この欄で『日々満足のわが食生活』なんて書いたことがあるが、あれは僕の住まいに生徒を4人ばかり居候させ、彼女たちにも料理を作らせていた時の話だ。連中が就職や留学で出て行ってからは、自分で毎日、なんとか工夫せざるを得なくなった。しかも「食の安全」はますます心もとなくなっているから、外食はできるだけ避けたい。生ごみから作った食用油が出回っているらしい。どこでそんなのに遭遇するかも知れない。

ひとりで作れる手軽な料理、しかも、出来るだけ安全な奴・・・何がいいかなあ。ふと「海の魚の煮付け」がひらめいた。日本に帰った折、わが家でよく食べている。もちろん、海の魚だって、上海とか天津とかの沖合の東シナ海で獲れた奴は、腹の中に何が入っているか知れたものではない。重金属汚染が怖い。しかし、わが南寧に送られてくる魚は、南シナ海からのはずだ。東シナ海の魚よりは安全に違いない。勝手にそう決め付けて「海の魚の煮付け」をわがメーンディッシュにすることにした。

幸い、住まいの近くに大きいスーパーができた。魚の売り場があり、氷の上にいろんな奴が並べてある。そこから適当なのを買ってくる。ただ、名前がサンマなどいくつかを除くとどうも分からない。売り場に名前は表示してあるのだが、中日辞典で調べても出てこない。どうやら地元での呼び方らしい。名前は不明だけど、1匹がだいたい10元前後(1元≒16円)、高くて20元ほど。サンマが一番安くて1匹2元から2.5元だ。

煮付けの作り方はいたって簡単。鍋の水に、しょうゆ、米酒(米から作った焼酎)、ニンニク、トウガラシ、土ショウガを入れて沸騰させ、魚を10分ほど煮るだけだ。本来なら清酒味醂を入れればいいのだろうが、こちらでは高価なので、米酒なるもので我慢している。

もうひとつのメーンディッシュは『日々満足・・・』でも書いたカレーである。当時は大きな鍋で作っても、食べる者が5人も6人もいると、あっという間になくなってしまった。だが、みんなが出て行ってしまうと、どっさりと残る。プラスチックの容器に小分けして冷凍しておけば、長く食べられる。怖い肉類はいっさい入れない。カレールーは日本製。ジャガイモ、タマネギ、ニンジンは近くの卸売市場で買ってくる。安全かどうかは不明だが、まあ、このあたりは目をつぶらざるを得ない。カレーには肉類の代わりに牛乳をどっさり入れている。この牛乳も以前、メラニンとやらが入っているとかで問題になった。それ以来、普段は飲まないことにしていて、使うのはカレーの時だけだ。

中国での食の安全を気にし出すと、カレールーに限らず日本に戻った折に買ってくるものが増えてくる。食塩もそうだ。重くて嫌なのだが、こちらの食塩は工業用の塩が偽って売られているなど、感心できないとのこと。時々、そんな奴が摘発されたなんて記事も新聞に出る。その後、それらが廃棄処分にされるのなら、まだ結構だが、中国人の知人によると、もう一度流通してくるのがこの地の常識だそうだ。「誰が捨てたりするものですか」と言う。

中国人の血液には、他のアジア人に比べて、カドミウムや鉛など重金属が多いという米国発の記事を読んだことがある。米の産地が重金属で汚染されたりしているのが原因だそうだ。そうなると、米も日本から持ち込みたくなるが、そこまでは重すぎて、とても手が回らない。

2008年の北京オリンピックの時も選手たちの食の安全が心配されたことがあった。その際、選手村の食事は絶対に安全な食材で作るので大丈夫とのことだった。へえ、そんなことが出来るんだと思ったのだが、いま北京にいる中国共産党のお歴々も、そんな食事を口にしながら「中国の夢」について語り合っているのだろうか。