「シルバー軍隊」はいかが

松元ヒロさんというコメディアンがいる。「ひとり立ち」「ひとり語り」などと称してひとりで舞台に立ち、文字通りひとりで1時間半ほどしゃべりまくる。62歳。高校、大学時代は駅伝の選手だったとか。テレビにそう出るわけではないので、超有名ではないが、ライブのチケットはすぐに売り切れる。お笑いに包んだ社会風刺、政治風刺が売り物だ。その彼が最近のライブで配ったチラシに次のようなくだりがあった。

「私は子どもや孫や親戚の子を戦場に送るわけにはいきません。その時は皆さん、私たちが行きましょう! 人数は多くて先が短い高齢者、怖いものなしです。鉄砲の音も良く聞こえないし(号令や命令も)、照準を定められないから人を殺すこともなく、敵からも喜ばれます。最高指揮官のアベさんには私から『薬の時間を守り、近くにトイレがある戦闘地域で、30分毎に休憩と、ケアマネ、ヘルパーさんを各連隊、部隊に配属するよう』お願いしておきます。ウチのカミさんも『アンタには保険をかけてあるから喜んで送り出す』と申しております。」

もちろん「集団的自衛権」に抗議し、風刺しているのだが、集団的自衛権への賛否は別として、言ってみればこの「シルバー軍隊」、実は僕の十数年来の妄想、いや持論でもある。松元ヒロさんの言に思わず膝を打ったが、彼には失礼ながら、僕はもう少しまじめに?かつ緻密に?シルバー軍隊創設について考えている。

そもそもシルバー軍隊を思いついたのは、各地のウオーキング大会に出た時に見る60歳代、70歳代、あるいはそれ以上のご老体たちの健脚ぶりからである。若者たちに勝るとも劣らない。いや、勝っている。サッカーだって、60歳以上のチームが日本全国あちこちにある。週に1回、2回と集まって、ボールを蹴っている。毎年、全国大会もある。

そこで、国家に軍隊なるものがどうしても必要なら、空軍のパイロットなんかは別として、山野を駆け巡る陸軍にはこういう元気な、例えば65歳以上のご老体を採用してはどうだろうか。当然、男性中心になろうが、別に女性でも構わない。男でも女でも1日に30キロや40キロの行軍なら、ものともしないだろう。

シルバー軍隊の利点はたくさんある。まず、定年後の人たちに職を与えることができる。しかも、会社の机に座っていたりするのと違って、毎日、体を鍛えながら規則正しい生活をするわけだから、ますます元気になる。いっそう健康になる。医者要らずである。体の鍛錬だけではなく、ハイテクにもある程度は慣れないといけないから、頭の鍛錬にもなる。認知症なんかになっている暇がない。あれやこれや、つまり、医療費が大いに助かる。

さっき定年後の人たちに「職を与える」と言ったけど、皆さん、多かれ少なかれ年金をもらっているだろうから、給与はお小遣い程度でいい。いや、ボランティアでも構わない、と言う人も出てくるだろう。医療費に加えて、国は軍人の人件費の面でも大いに助かる。また、子や孫のために戦うと思えば、シルバー軍人たちは命なんてそう惜しくはない。安い人件費で士気のきわめて高い軍隊になる。あ、そうそう、慰安所だの慰安婦だのといったおぞましいことにも、シルバー軍隊はまず無縁だろう。いいことずくめである。

お隣の中国にも教えてあげたい。中国では街中などで「一人参軍 全家光栄」というスローガンを時々見掛ける。「あなたの家から一人でも軍隊に入れば、それは一家にとって光栄なことです」という意味だ。中国軍も人集めに苦労しているのだろう。じゃあ、高齢化の進む中国でもシルバー軍隊の創設は結構な話ではないか。ただ、夫婦共働きが普通の中国では、おじいさんとおばあさんには重要な役割がある。孫の面倒を見ることである。食事の世話から学校の送り迎え・・・大変である。とても「参軍」どころではないかも知れない。思うに、欧米人のご老体もシルバー軍隊にはあまり興味を示さないはずだ。僕の知る限り、日本のご老体ほどには体を鍛えていない。

となれば、シルバー軍隊は日本独自のものになる。さっき、シルバー軍隊は士気が高いと言ったけど、殺し合いなんて、しないに越したことはない。その点、シルバー軍人たちは士気は高くとも思慮に富んでいるだろうから、軽はずみなことはしないはずだ。猛々しくないそんな軍隊はPKF(国連の平和維持軍)あたりに向いている。そのPKFには男の軍人よりも女の軍人の方が適任かも知れない。行く先々で親しみを持って迎えられる。シルバー軍隊は人を殺さない。歴史上珍しい「反戦平和」の軍隊になるだろう。

さすれば、日本のシルバー軍隊がノーベル平和賞の候補になることも考えられる。今年のノ−ベル平和賞発表の折に話題を呼んだ「憲法第9条」よりも「シルバー軍隊」の方が受賞に近いのではないだろうか。