中国「お任せ」旅行

明けましておめでとうございます。実は私、元日は中国のどこかで過ごしています。この文章は年末、日本を出発する直前に書いたものです。本年も駄文にお付き合い願えればまことに幸いです。

この十数年では初めて1年のほとんどを日本で過ごしていると、だんだんお尻がむずむずしてきた。中国にいる塾の生徒たちのことが気になる。メールのやり取りはしているのだが、どうしているかなあ。久し振りに会いたいね。

そんな折、気掛かりな知らせも飛び込んできた。南寧の我らが「東方語言塾」は少なくとも2015年の夏までは続ける予定だったのだが、どうも14年12月末で閉じざるを得ないようだ。塾は、生徒だった20歳代半ばの女性2人に任せてきた。しかし、授業のこと、経営のこと、何かと大変だったようで、うち1人は体調を崩して入院する羽目にもなった。とてもこれ以上は続けられないと言う。

若い2人に無理をさせて申し訳なかった。慰労がてら話も聞いてみたい。1カ月か2カ月、中国に行ってこようと思い立った。何回でも出入国できる2年マルチのビザもまだ残っている。でも、これまでは向こうに住まいがあったが、今回は住むところがない。1カ月も2カ月もホテル暮らしをするのは大変だ。アパートをしばらく借りようか。でも、そんなこと、簡単にできるのだろうか?

いささか雲をつかむような話なのだが、こういう時にはわが生徒たちに限らず中国の人たちは頼りになる。塾の最古参のひとりで、今は日系企業で通訳をしている女性に「12月の終わりから2月の初め頃までそちらで暮らしたい。○○日に船で上海に着く。よろしく」と連絡した。日本人ならこんなことを言って来られれば、「なんと厚かましい非常識な奴」と思うだろうが、中国人は相手が親しい人であればそうではないみたい。こんな大ざっぱなお願いでも受け入れてくれる。孔子様の「友あり遠方より来たる また楽しからずや」の精神だろうか。

しばらくして彼女から連絡があった。僕の予定は――上海に到着後、ホテルに1泊、翌日の飛行機で南寧に行き、ホテルでやはり1泊、あともう1人の生徒との3人で、農村にある彼女の両親の家を訪問し、そこでお正月を過ごす。「当面はこういう予定でいかがですか」と言うので、「すべてお任せする」と答えておいた。両親宅を訪問した後は、彼女の勤め先近くで暮らすべく、職場の仲間を動員してアパートを探してくれている。上海の港には、この地で働いている生徒が迎えに来てくれるようだ。

余談だけど、2010年の上海万博以来、外国人が上海でホテルを探すのは少し難しくなっている。高級ホテルだと問題はないのだが、僕なんかが泊まる庶民向けのホテルでは「当局のご指導で外国人はお断り」と言われることがある。治安の面で外国人に迷惑を掛けてはいけないというのが表向きの理由らしいが、本当のところはよくは分からない。

万博まで僕がいつも利用していたホテルは、そのせいで泊まれなくなり、以後は仕方なく1段階上げて――と言っても、日本で言えば東横イン級の、港の近くにあるホテルに変えていた。今回も生徒はこの常宿に予約しようとしてくれたのだが、外国人を理由に断られ、別のホテルを取ったとのこと。ところが、断られたところも予約できたところも、どちらも同じ系列の全国チェーンのホテル。歩いても20分ぐらいしか離れていないのに、一方はNOで他方はOKとは、どうなっているのだろうか。

ところで、今度の旅行は生徒の一部には随分と面倒を掛けるし、ほかの生徒たちともおよそ1年ぶりの再会だ。。お土産もこれまでのように十把ひとからげのものではなく、一人ひとりに向けた、少しは気の利いたものを持って行くべきだろう。でも、誰には何がいいか、女性がほとんどのせいもあって、僕には見当がつかない。それに、お正月に生徒の両親宅を訪問する時には、どんな土産がいいのか。両親に加えて祖父母への挨拶も必要だろう。

頭を抱えていたら、ここでも中国人の仲間が頼りになった。僕と一緒に南寧の塾で教えていた女性だ。いま日本で仕事をしているが、「私にすべてを任せなさい」と、土産選びを引き受けてくれた。渡された土産の山を見ると、それぞれが何を欲しがっているかを探り、かつ、そう高くないものを取り揃えたとのこと。化粧品、装飾品の類が多いが、人によっては練り歯磨きに歯ブラシと多彩だった。

かくして、何から何まで「お任せ」の旅行は準備万端が整ったが、頭が痛いのはこのところの超円安である。以前、南寧にいた頃は1万円を人民元に両替すれば、800元を超すこともよくあった。ところが、いま日本の銀行で両替しようとすると、1万円が500元をかなり切ってしまう。日本びいきの中国人が言っていた。「こんな円安は先進国としての輝きを失わせてしまいます。中国人からも日本は軽く見られますよ」。でも、仕方がない。生徒たちには「アベノミクスのせいで・・・」と言い訳しながら、けちけち旅行をしてこようと思っている。