台湾の老人割引 外国人にはやや冷たいけど

知人を台北の桃園国際空港まで見送ろうと、鉄道の台北駅近くのバス停留所に行った。台北に着いて1週間後のことである。空港までのバス料金は1人125元(銀行での当時のレートだと、1元=3.75円)で、2人分250元を切符売り場に差し出した。すると、窓口のおじさんは僕の顔を見て、「あなたは半額でいいです」と、その分のおカネを返してくれた。

聞くと、65歳以上は料金が半額とのことである。僕はそれまでに空港と市内を1往復半しているが、老人割引のことは知らなかった。125元も払って損をしてきた。で、知人を見送った後、空港のバス停の切符売り場で老人割引の切符を求めた。ところが、窓口のおばさんは「あなたは台湾人か」と聞く。「いや、日本人だ」と言うと、「割引は台湾人だけだ」と応じてくれない。台北駅近くのバス停のおじさんは僕を台湾人だと思ったのだろうか。

それはそれとして、老人割引で台湾人と外国人を差別するのは、先進国としていかがなものか。そう言えば、四半世紀ほど前の大陸の中国では、例えば北京の「故宮」(紫禁城)などの入場料金は中国人より外国人が高かった。割引ではなく割増で、ホテル代もそのようだった。今ではそんなことはないが、さっきのことをきっかけに台湾での老人割引についてもっと知りたくなった。

まず、高速鉄道(高鉄、日本風に言えば新幹線)に乗ってみよう。下宿の奥さんに聞くと、「以前に来た日本人は台北から高雄まで半額の料金で旅行してきましたよ。60歳代後半の方でした」と言う。高雄は台湾の南端の大都市である。高鉄で片道2時間半、料金は普通車で1500元ほど(約5500円)。日本の新幹線に比べると安いし、高雄は昔、船で寄港して一晩を過ごした町だ。ぜひ再訪してみたいが、老人割引がなかったら悔しい。

そこで、まずは南方へ30分ほどの新竹という市まで行ってみることにした。料金は片道250元。台湾のシリコンバレーと呼ばれているところである。下宿近くの板橋という駅で、まず息を整えてから、北京語(台湾の国語)で切符を求めた。「新竹駅まで老人割引で1枚」。窓口の女性は「台湾人でないと、割引はしません」と、にべもなかった。発音が悪かったのかな。

新竹からの戻りは、高鉄ではなくて台湾鉄路(台鉄、日本風に言えば在来線)を使ってみることにした。切符売り場で「板橋駅まで老人割引で1枚、いいよね」と元気よく言うと、年配のおじさんは「いいよ、いいよ」。各駅停車の在来線だと、時間はかなり掛かるが、来た時の5分の1の料金で済んだ。

その後も台鉄はやや長距離を往復切符を買って2度ばかり使ったが、いつも半額だった。ただし、下宿の奥さんが親切にも切符売り場まで付き添い、「あなたは黙っていてね」と、代わりに切符を買ってくれたせいかも知れなかった。

台湾に住む日本人に聞くと、「以前の高鉄は外国人にも老人割引をしていたけど、経営が楽ではないので、やめたのかも知れない」と言う。真偽のほどは分からないが、高鉄の経営難は日本の新聞でも読んだことがある。。地下鉄も以前は外国人の老人も運賃を半額ほどにしていたが、今はやめてしまったとか。下宿の奥さんもそんなことを言っていたけど、これも真偽不明である。

今度来た時にちゃんと調べてみよう。でも、台湾人の老人なら新幹線も在来線も半額というのは、日本とは比較にならないなかなかの優遇である。

バスや鉄道以外でも老人割引を探ってみた。まずは台湾の誇る「国立故宮博物院」に行った。壮大な建物で、新石器時代から清朝末までの60万点とか70万点とかの文物を所蔵しているそうだ。入場料は600元。切符売り場で若い女性に旅券まで見せて老人割引で半額にするように求めた。すると、きれいな日本語が返ってきた。「まことに申し訳ございません。半額は台湾人だけでございます」。

故宮博物院に比べると、建物も何もかもが小ぶりだが、「国立台湾博物館」なるものが台北市の中心部にある。その切符売り場に近づくと、向こうから声が掛かった。やはり若い女性のきれいな日本語だ。「日本の方ですか」「はい」「65歳以上ですか」「はい」「じゃあ、無料です。どうぞお入り下さい」。おおらかと言うべきか、同じ国立の施設でもいろいろあるのだ。

その後もあちこちで試してみたが、台湾人でないことを理由に断られることが多かった。近郊にあった陶磁器の市立博物館で80元の入場料を半額にしてくれなかった時には、窓口のおばさんに思わず毒づいてしまった。「高過ぎるんじゃないの?」。そして、建物に入ると、受付にいた白髪の女性と若い女性がともに流暢な日本語で何かと世話を焼いてくれた。80元は決して高くはない。老人割引をひたすら求めてきた我が身のせこさが恥ずかしくなった。